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店が軌道にのってきたある日のこと、営業終了後にゴミを店先に出そうとしたら段ボールにくるまって寝ている先客がおった。朝晩は冷える。店の前でのたれ死なれても気分が悪いと思って声をかけてスープをご馳走したが最後、仔犬のような目で見つめられて住み込みのバイトとして雇うことにした。
「はい、おねーさん」
「やだ超可愛い〜！この店レベル高くない！？」
しゃーなしの雇用だったはずが接客の才能が天才的で端正な顔立ちと持前の愛嬌で客のハートを掴むと望目当てで店を訪れる客がちらほらと出てきた。
望のはじめての飼い主もそのうちのひとり。
ヒモになってからも最初のうちは週３だけどしっかりバイトしてたのが週２になって週１になって──かと思ったらフルタイム働いて店で寝泊まり。いろんな飼い主を渡り歩いてた望が「太客見つけた！」と言って姿を見せなくなった。
「ほんで久しぶりに店に顔見せたと思ったら、父子家庭に転がりこんでて、しかもそこの父親に熱をあげてるっつーんだからびっくりしたわけ」
やけど、ここに来てからクソみたいな生活送ってるこいつが朝になると朝ごはん作らな…って起きて、夕方になればおむかえ…って焦りだして。でもすぐにもう必要ないことを思いだして泣きそうになってて。
「嗚呼こいつマジなんやってすぐわかった」
「……」
「せやから、ジュンタさん。望のことを息子の世話を見てくれて家のことやってくれる都合のいいヤツやと思ってるなら振ったってください」
「そ、そんな都合のいいやつやなんて思ってへん！」
「じゃあ何？」
「…その…なに…って言われると…」
「ごめんごめん」
パッと見はスマートでカチッとしててしっかりした隙のないかっこいいお父さんだけど、口籠もり考えあぐねてる姿はほっとけないというか庇護欲がくすぐられるというかなんというか…うん、可愛い。
「望のこと、すき？」
「それは…どういう…」
「きらい？」
「きらいやないです…好きか嫌いかで言うたらのんちゃんのことは好きだし…大事だと思ってます、それこそ家族と変わらんくらい…やけど……」
「それだけで充分やと思います。せやから今言うたこと、ずっと悩んでることを全部話したって。とっくに起きて寝たふりしてるそこのたぬきに」
ジュンタさんたちのうしろのソファで丸まっていた塊が面白いくらいビクッと跳ねて、真っ赤な顔をしたジュンタさんがゆっくり振り返ると毛布から顔を覗かせた望の視線がかち合う。
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作者名：26 | 作成日時：2022年10月21日 0時
