【歌い手短編集】平成最後の夏は君と！ (ページ12)

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黒パーカーページ12

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「え、それ、それ、それ着るん？」

「いや、海って水着で入るの知ってる？」

「い、いや知っとる、知っとるよ…うん」

きらきらと水面に反射する光がとても綺麗な海…というのも空き時間ができたので坂田の夏ツアーが始まる前に一度夏らしい事を、と海まで来たのだが

「そのパーカーは脱がんといて！うんうん！その方がかわええから！な！」

「え、ちょ、離せぇ…！」

黒の私の色気もクソもないパーカーをぐいぐいと引っ張って、私のファスナーを下げさせない坂田…無駄に馬鹿力め

でもここで引き下がって良いものか

何のためにわっざわざ人が多いところに出向いて水着を買いに行ったのかこれじゃ意味がない

「なんでそんなに脱がせたくないの離せぇえ…」

「だってそれお腹めっちゃ出る奴やんか！！嫌やわそんなん！」

「だからここ海！」

なんだこいつ良い加減にせんかい！

海は水着で入るもの！ここまであほなのか？あほなのか

「も～！坂田といたら暑い！！ちょっと水買ってくる！」

「っあぁ！脱がんといてね！？そのまま行ってすぐ帰ってくるんよ！？」

「わーったから！そこで座っときな！」

まだ縋りつこうとする坂田を効果音がつきそうなぐらい激しくべりっと剥がして小銭を握る

「ったく…せっかく、買ったのに」

黒のパーカーを少し開けて買った水着を見る

これでも坂田の為という気持ちが大半でビキニを買ったのにあそこまで否定されてはなかなか悲しいのだ

…坂田は、私の見たくなかったかな

「まぁそうか…もっと可愛い子いっばいるしな」

一瞬でも見て可愛いって言って欲しかったな、なんて思いながら自販機の前に立つ

そんな時だった

「かわいいねぇ」

「！？」

「おっ、スタイルいいねぇ…黒パーカー勿体無いよ？」

不自然に黒く焼けた肌が気持ち悪い

あぁ、俗に言うナンパと言う奴で

こういうのは無視するのがいいと美人の友人が言っていたことを思い出して黙って身を翻す

「え～？いなくなってもいいけどその中さぁ、見せてよ」

「…っは？」

「ほら、下げてよ」

「ち、ょ！？」

声に少し反応して振り返った瞬間に私のパーカーのファスナーに伸びる手

「や、だ」

やだ、気持ち悪い

坂田の為に買ったのに、着たのに

そう思うとなぜか涙が出て

でも

「人の彼女に、なにしとんの」

その声がなかったら私はずっと泣いていただけだっただろうな、なんて

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