才能なんてないから(2)

1歩 ページ50

その後及川さんと別れた僕は1人家の中でぼーっとしていた

踏み出せと言われたけれど何からすればいいのか分からない。多分僕はそんなにいきなり変われない

好きだと言えるようになるにはどうしたらいいのか。本気で取り組む？何を？どのように？

もっと具体的なことはなんだ？なんて頭の中で必死に考える

女の子に優しくする、とかならまあできたけど信用するとかは僕が信用しようと思ってできるものじゃないと思う

そんなことを考えているとガチャりと家の鍵が開く音がした

きっと山崎さんが来たのだろう。最近あってなかったなと思ったがだからどうということは無いためそのまま考えることを続けた

山崎さんはそんな僕を気にすることなくいつもの位置に座りパソコンをいじり始める

会話がないからただただ沈黙が続く。聞こえてくるのは秒針の音と外を走っている車の走行音だけ。まるで僕一人でいる時と何も変わらない

「最近はどうだ？」

その沈黙をさきに破ったのは山崎さんだった

「わからないです」

「何がだ？」

何も分からない。信じることも仲間というものも、僕は分からない

僕はしばらく黙っていた。これをなんて説明すればいいのかわからなかったし、及川さんと話したことを全て話すのもそれは違うと思った

それにもしここで山崎さんの意見を聞いたら、僕は言われた通りに動くから。それではいけない気がした

「今まで壁にぶつからなかったんだ。いい機会だと思ってとことん壁に当たるといい」

僕がずっと黙っていると、山崎さんはフッと笑いながらそう言った。その姿はまるで本物の父親のように思えた

けれど、そんなことを期待はしない。血が繋がっていないし、山崎さんは僕のことを自分の子供だとはきっと思ってないから

だってもし思ってたらきっと毎日だって会いに来るはず。でも彼はそれをしないから

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