その愛、雨模様。

非居所の模様です。(kne)☆ ページ26

案外、未来っていうものは脆い。
現に、ずっと一緒にいようねなんて笑いあった友達は、もう私を睨んでいる。

目を開けると、ドアが幾つも並んでいた。不思議と自分のしなければならないことが分かって、目の前にあった丸い形をしたドアを開ける。
その先に見えるのは、やけに藍色の空とピンク色の地面、木、球体。そして、こちらに背を向けている誰か。

『あの』
小さな声を絞り出すと、その誰かが振り向いた。
綺麗な水色だな、と思った。始めはきょとんとした顔だったその人は、私を認識して柔らかに顔を綻ばせる。その仕草一つ一つが美しく思えた。
｢はじめまして｣
｢僕、叶っていいます。よろしく｣
差し出された手に従って軽い握手を交わす。
人の体温なんて、久しぶりだった。


叶くんと一緒に過ごす時間は楽しかった。
私の話ばかりをしても嫌な顔一つせずに相槌を打って聞いてくれるし、叶くんのふわふわとした声は聞いていて非常に落ち着く。
それに比べて、現実は過酷だった。
友達に私の話をすれば｢興味無い｣と一蹴されて向こうの自慢話を延々と聞かされる。クラスの人達がいる前で全員に聞こえるように私の失敗談を語られ、次の日からろくに人が近寄ってこなくなったことだってあった。それに笑い声は大きくてうるさい。
ぶっちゃけた話、ずっとここに居たかった。

｢Aちゃん｣
いつも通り中に入って叶くんを待っていると、後ろから声を掛けられた。
求めていた優しい声に振り向くと、穏やかに笑って私を見る叶くん。私もそれに釣られながら、叶くんに駆け寄って尋ねた。
『今日は何をするの？』
｢今日は散歩でもしようか｣
うん、と元気よく頷いてピンク色を歩き出した。

もう30分ぐらいだろうか。叶くんと話しながら歩いていると、不意に今日あったことを思い出してしまう。
直ぐに頭を切り替えたはずが、叶くんにはお見通しだったようで。
｢顔色悪いけど、なんかあった？｣

｢お母さんに何か言われたの？それともクラスの誰かが冷たいの？｣

優しいトーンの問いに、そっと頷いた。

『私の居場所、ないや』

はは、と小さく笑うと、叶くんは私の体を包み込んだ。
｢悪い夢(・・・)見ちゃったんだよね、｣

とん、とんと優しく背中を叩かれる。
悪い夢..確かに、そうだったのかもしれない。記憶は曖昧で、でも恐怖は確かにあったから、叶くんの胸板に自身の頭を押し付ける。

｢ここにはそんなのいないから大丈夫だよ｣

赤子をあやすような声に、酷く安心した。

非居所の模様ですから、籠絡にはご注意を。(kne)☆→←午餐の模様です。(kzh)☆注意

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