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「……そういえば、叶さん、よく部屋に入れましたね」
少しばかり沈黙が流れて、ふと、疑問に思っていたことが口からこぼれた。このホテルはよくあるカードキー式で、私の部屋の鍵は当然部屋の中、差し込み口に刺さったまんまだ。
と、おもったけど、あれ。ふと視線を向けると、刺さっているカードの色が違った。
私の視線を追いかけて、叶さんはあぁ、と納得したように頷いた。
「最初は普通にフロントにお願いして開けてもらったよ。おんなじ名義で部屋取ってあったし、一緒にチェックインしたしね」
本人確認したら開けて貰えた、とのことで、それが私があの、失態をさらした時の話。
叶さんは入り口に近づいて、刺さっていたカードを抜いた。当然パチリと電気が消える。代わりに正規のカードキーが差し込まれると、また電気がついた。
「この差込口って、サイズが一緒だとなんでも反応するんだよねぇ。だから、ちょっと拝借しちゃった」
「……そうですか」
咎めるべきか、凄まじく悩んだ末に、助けてもらった身なので何も言わずに許容することにした。そんな顔しないで、とけらけらわらって、叶さんはカードをお財布にしまい込む。どうやらクレジットカードを差していたらしい。
「とりあえずご飯食べな?お風呂、って入っていいんかな」
「いつも入ってますよ、気にしてたら次の日まで入れないし」
一度お風呂に入って寒暖差が出来るせいで長引くのかな、と入らないでみたこともあったけど、その時も普通に次の日までしっかり長引いたので、もはやそういうものだと割り切っている。
かなり汗かいてるし、お風呂は普通に入りたい。
「そう?じゃあ入っといでー。僕部屋にいるから、上がったら呼んでくれる?」
「はーい、了解です」
これは冷蔵庫に入れとくねー、と見せられたのは、よく見なれた白いパッケージ。塩とライチをうたうそれは、私も結構好みのものだ。ありがとうございます、と素直にお礼を告げると、いいよー、と手を振って叶さんは部屋を出ていった。
そのあとで、別にもう一度呼ぶ必要は無いんじゃ?と僅かに思ったけど、約束したわけだし無視はできない。
とりあえずは目の前にある丸一日ぶりくらいの食事をゆっくり、全て胃におさめたのだった。
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凡(プロフ) - はじめまして!!この作品が大好きで何度も何度も読み返しています。これからも活動応援しています! (2021年8月19日 16時) (レス) id: b829afb215 (このIDを非表示/違反報告)
莉紬(プロフ) - りあさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。細かいところまで気にしていただいて、丁寧にかいた甲斐がありました。ぜひ、今後もお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年6月30日 13時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
りあ - 一気読みしました、、、!とても好きです…!作中にサンダーソニアが出てきたときは思わず声を出してしまいました…!! (2021年6月29日 18時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - 神さん» とても嬉しいコメントありがとうございます。そう言って頂けますととても励みになります。ぜひ、最後までお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年5月11日 22時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
神(プロフ) - はじめまして。数日前にこの小説を見かけ、読ませていただいたところ本当に面白くて一気に読んでしまいました。差し出がましくて申し訳ないですが、これからも更新を応援しております。 (2021年5月11日 21時) (レス) id: bf2877755d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:律 | 作成日時:2021年5月5日 0時