控え室 ページ24
だめだ、緊張してきた。
タクシーから無心で外を眺めながら、はぁぁ、と息を吐いてみる。
ついにやってきたコラボイベント当日。黛さんに言った通り、本番二時間ほど前の今が一番緊張していた。
いつもよりぎこちない動きで代金を払って、会場の専用入口から入る。忙しなく動き回る人達に、動いたことでほぐれた緊張がまたぶり返してきた。
楽屋、どこだろう。迎えに行きます、って言ってくれたマネさんに断ったのは私だけど、これなら頼めばよかったかもしれない。
貼られた名前を見比べながら歩いていくと、あった。
黛さんの名前も一緒に書いてあったので、コンコン、とノックをしてから扉を開ける。
「あ、おはようございます、黛さん」
「呉羽さん、おはよう」
スマートフォンを見ていた彼は、顔を上げるとひら、と手を振ってくれた。画面越しとはいえ見慣れた顔に、少し息を吐く。
「今日かなり暑かったと思うけど、大丈夫?」
「バッチリ対策してきたし、タクシーを使ったので平気です。あ、ありがとうございます」
立ち上がった彼はわざわざ未開封のペットボトルを渡してくれて、お礼を言いながら受け取る。そこでふと気付いた。いや、情報として知ってはいたんだけど。
「黛さん、かなり背が高いですよね」
「それ、褒め言葉かな、だとしたらありがとう」
「なんでそう卑屈なんですか、普通に褒め言葉ですけど。なんだろう……なんでかもう少し低いイメージがあったんですよね」
頭一個分くらい身長がちがうので、自然と見上げる形になる。彼は少し首を傾げて私を見た。……なんでか、わかった気がする。印象が幼いのだ。子供っぽい、と言うよりは、なんというか、高校生が少し大人ぶっているような。
口に出したら間違いなく失礼なので、もちろんそんな言葉は飲み下す。もっとも、彼が歴とした成人男性で、とても頼れる人なのは重々承知の上だけど。
「そういえば、会場の方ってもう覗いていいんですかね」
「いいとは思うけど、早くない?」
「初めての場所ってどうしても緊張するんですよ、せめて目に慣れさせて置こうかと思って」
「目に慣らすとかあるんだ。じゃあ俺も行こうかな」
呉羽さんが迷子になったら行けないし、なんて告げる彼にそんな子供じゃないですよ、と頬を膨らませ、私もスマホを片手に部屋を出た。
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凡(プロフ) - はじめまして!!この作品が大好きで何度も何度も読み返しています。これからも活動応援しています! (2021年8月19日 16時) (レス) id: b829afb215 (このIDを非表示/違反報告)
莉紬(プロフ) - りあさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。細かいところまで気にしていただいて、丁寧にかいた甲斐がありました。ぜひ、今後もお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年6月30日 13時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
りあ - 一気読みしました、、、!とても好きです…!作中にサンダーソニアが出てきたときは思わず声を出してしまいました…!! (2021年6月29日 18時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - 神さん» とても嬉しいコメントありがとうございます。そう言って頂けますととても励みになります。ぜひ、最後までお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年5月11日 22時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
神(プロフ) - はじめまして。数日前にこの小説を見かけ、読ませていただいたところ本当に面白くて一気に読んでしまいました。差し出がましくて申し訳ないですが、これからも更新を応援しております。 (2021年5月11日 21時) (レス) id: bf2877755d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:律 | 作成日時:2021年5月5日 0時