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ちょうどパンフレットが置かれていたので、一枚とって斜め後ろに座った叶さんに手渡した。ほんの少しでも楽しんで貰えたらいいんだけど。
「そこと、造花の専門店のコラボショップなんです。好きなお花のアレンジメントと香りを作ってもらえるんですよ。花びらに香水を染み込ませてお部屋に飾る、一種のルームフレグランスですね」
「へぇ、面白そう。どんな花でもいいの?」
「見本になくても基本的には作ってもらえるみたいですよ。……せっかくだから、叶さんもやってみませんか?」
ぱちくり、叶さんは少し瞬いて、それからいいの?と不思議そうに首を傾げた。私は頷いて、特に個数制限もありませんし、と答える。
元々いくつか作ろうかなぁ、くらいの気持ちで予約しているので、時間に余裕はあるのだ。そんな話をしていれば、店員さんがおまたせしました、と正面に座った。
軽い自己紹介を受けて、少し雑談を交える。笑顔が綺麗な女の人だった。
「さっそくですが、お花や香りの候補はお決まりですか?もし御要望があれば見本誌もございますよ」
「え、と、一冊ずつお借りしていいですか?ひとつは決まってるんですけど、いくつか作りたいので」
「かしこまりました。よろしければ、お決まりの香りのサンプル品をお持ち致しますが」
「それじゃあ、バニラと、ローズとジャスミンのサンプルをいただけますか?」
「はい、承知致しました。それでは、少しお時間頂戴致します」
小さく会釈して、彼女は扉の向こうへ消えていく。ほう、と詰めていた息を吐いて目を伏せた。初対面というのはかなり緊張する。この見た目がどう思われてるか、なんて、考えても無駄なことなのだけど。
「Aちゃん、もしかしてアロマ詳しいの?」
それまで黙って見守っていた叶さんが、気を使ったのか話を振ってくれた。うーん、詳しくはないような。
「そこまでじゃないです。病室に持ってきてくれた看護師さんがいたからちょっと知ってるだけで」
「でもすごいよね。この間から思ってたけど、Aちゃんって学習能力が高い気がする」
「まぁ、毎日ありとあらゆることが新鮮なので、子供と変わんないですよね。だから覚えもいいのかも?」
「子供の学習能力ってやばいもんね」
「ね、むしろあれくらい柔らかい脳がほしい」
「いけるいける」
そのうち手に入れられるかもよ、と適当を言う叶さんに少し笑う。こういうところがあるよなこの人、だから話していて楽しいんだろうけど。
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凡(プロフ) - はじめまして!!この作品が大好きで何度も何度も読み返しています。これからも活動応援しています! (2021年8月19日 16時) (レス) id: b829afb215 (このIDを非表示/違反報告)
莉紬(プロフ) - りあさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。細かいところまで気にしていただいて、丁寧にかいた甲斐がありました。ぜひ、今後もお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年6月30日 13時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
りあ - 一気読みしました、、、!とても好きです…!作中にサンダーソニアが出てきたときは思わず声を出してしまいました…!! (2021年6月29日 18時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - 神さん» とても嬉しいコメントありがとうございます。そう言って頂けますととても励みになります。ぜひ、最後までお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年5月11日 22時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
神(プロフ) - はじめまして。数日前にこの小説を見かけ、読ませていただいたところ本当に面白くて一気に読んでしまいました。差し出がましくて申し訳ないですが、これからも更新を応援しております。 (2021年5月11日 21時) (レス) id: bf2877755d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:律 | 作成日時:2021年5月5日 0時