あつさのせい ページ16
予想通り、配信の翌日ふと忘れかけたころに、ぴこんと鳴った通知音。
登録しただけで履歴のないトーク画面には、叶さん、の表示とここ行きません?なんて簡素な言葉。
貼り付けられていたリンクに触れて飛んでみると、新オープンの茶葉専門店のページが出てきた。
お昼の時間帯のみ予約制で軽食を出しているらしく、ストレートティーはもちろんふわふわミルクのラテに、様々なフレーバーのパンケーキやシフォンケーキ、プリン。メニューを見ているだけで楽しくて、思わず美味しそう、なんて言葉がこぼれる。
もちろん、返答はぜひ、行きましょう、と。
そんなわけで予定を決めて、間違いなく混み合う土日は最初から視野に入れず、埋まっていた月曜日を飛ばして火曜日。
朝からそれなりの気合を入れて準備をして、余裕を持って十分近く早く着いたのに待ち合わせ場所にはすでにミルクティー色が存在していたのだから、私は慌てて駆け足になる。
「叶さん、お待たせしました」
にらめっこしていたスマホを伏せた彼は、いいよー、全然余裕あるし、とひらひら手を振って笑う。
「楽しみで早く着いちゃっただけだから、Aちゃんは気にしないで。行こうか」
バスでも平気?と首を傾げられ、大丈夫です、と頷く。何も見ずに歩き出して乗るバスを探すあたり、事前に下調べが済んでいるらしい。なんというか、さっきからすごく、なんというか。
「モテそうですよね、叶さん」
「えー、そう?」
にこりと笑うあたり、自覚は多分あるんだろうな。
"前"にはこんな風にでかけることなんてなかったし、気付く機会もなかったけど、そりゃそうか。顔もいいし声もいい、おまけに気遣い上手、となれば、モテるだろう、それは。
……こういう時、執着心というのは厄介だ。一度だって"私のモノ"だったことなんてないし、もう手の届く範囲にもないのに。だって手に入れた幻想を見た事があるから、譲りたくない、なんて思ってしまう。
昔からそう。信じないよう目をそらすくせに、独占欲だけは一人前で、今もまだ、自分で手を伸ばさないと決めたのに、淡い期待なんてものをしている。
「今日、思ってたより暑いですよね」
「ね、アイスとか食べたい気温だよね」
「美味しそう、私もそうしようかな」
落ち込みかけた気分を誤魔化すように、そう言って彼に笑いかけた。
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凡(プロフ) - はじめまして!!この作品が大好きで何度も何度も読み返しています。これからも活動応援しています! (2021年8月19日 16時) (レス) id: b829afb215 (このIDを非表示/違反報告)
莉紬(プロフ) - りあさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。細かいところまで気にしていただいて、丁寧にかいた甲斐がありました。ぜひ、今後もお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年6月30日 13時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
りあ - 一気読みしました、、、!とても好きです…!作中にサンダーソニアが出てきたときは思わず声を出してしまいました…!! (2021年6月29日 18時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
律(プロフ) - 神さん» とても嬉しいコメントありがとうございます。そう言って頂けますととても励みになります。ぜひ、最後までお付き合い頂けますと幸いです。 (2021年5月11日 22時) (レス) id: 99f03ec5b8 (このIDを非表示/違反報告)
神(プロフ) - はじめまして。数日前にこの小説を見かけ、読ませていただいたところ本当に面白くて一気に読んでしまいました。差し出がましくて申し訳ないですが、これからも更新を応援しております。 (2021年5月11日 21時) (レス) id: bf2877755d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:律 | 作成日時:2021年5月5日 0時