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鎧も女型も、頭部を落とされ微動だにしない。かろうじて動いている悪魔も、右目を撃ち抜かれ、硬質化も間に合っていない。視界を跳び回るブロンズ髪が微かに見えるだけだ。
もはや人の形も崩れている巨人の姿に眉を顰めつつも、ハンジは走りながら冷静に事を見極めていた。
何か、欲しい。この状況を少しでも崩す何かが——。
ないものねだりだ。わかっている。それでも何かに縋りたいほど、事態は切迫していた。
ただ時に、ないものねだりが叶うこともある。絶望的であればあるほど、どんなに小さく、どんなに拙かったとしても、それは大きな転機になり得る。
それが訪れるのは唐突だった。ハンジが走る隣の通りから、嫌というほど見たあの金色の光玉が現れた。大きな雄叫びと共に出現したそれは、巨人化したファルコの姿——顎の巨人だった。
「ほんと、博打がすぎるね」
不安に駆られつつも、ハンジは息を吐く。博打だろうとなんだろうと、れっきとした好機には違いない。
「今だ！奴らの連携が崩れた！」
ジャンの一声は彼女の元にも届いた。朦朧としかけた意識が徐々に鮮明になっていく。
今しか、ない。
彼女は渾身の力で項からその身を出した。
「出てきたぞ！撃てえぇーー！！」
即座に雷槍が飛んでくるが、彼女が身を翻す方が早かった。放たれた雷槍は空になった巨人に撃ち込まれ、巨体を吹っ飛ばす。
立体機動ではるか上空に舞い上がった彼女は、もう一度指を噛み切った。
「ちょっと待て、あれって——」
「っ、死んだはずじゃ…っ」
やはりマントは持っていかれ、彼女の顔を隠すものはない。上空で一回転し顔にかかった髪が靡いた時、その場にいた数名のイェーガー派は呆気にとられ、固まった。
そんな彼らが巨人化に巻き込まれるのは必然である。
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作者名：あんこもち
| 作成日時：2024年2月19日 8時
