86 -The nostalgia- ページ1
地上の轟音は、当然地下にも響く。巨人が動けば地が揺れ、瓦礫が舞えば轟々と音が鳴る。
「い、今…、なん、て言った…？」
轟音の鳴り響く地下に、ほんの一瞬だけ無音の時間が流れた。
「ですから、通常は飛行艇を飛ばすための整備工程に一日を要します。十分な設備さえあれば半日で飛ばせてみせますが……」
「半日、だと…？」
ハンジ、ジャン、マガトの顔に浮かぶのは絶望。
巨人の持続時間は良くて数時間。こちらの戦力には限りがあり、対する敵の補給線は厚い。どれだけ低く見積もっても、半日の間イェーガー派から港を制圧し続けることは不可能だ。
「……間に合わなかった」
ハンジの声も大きく震える。
「地鳴らしの進行速度は、馬の駆け足よりも速いくらいだった。それも障害物を無視して進むから、半日もあれば巨人が上陸した海岸からおよそ600キロは被害に。全ての大陸を踏み潰すまでには、四日、かかるだろう」
つまり、最善の手でエレンを止められたとしても、レベリオ収容区はすでに手遅れだ。
「そんな……っ」
「飛行艇が飛んだところで、エレンの位置がわからない。時間は更にかかる。そもそもここで半日持ちこたえることも不可能だ。これは……」
なす術がない。
皆一様に口を閉ざした。
これでは戦う意味も、仲間を殺す意味もない。ここでイェーガー派を止めたとて、世界は何一つ救えない。飛行艇がなければ、地鳴らしに近づくことさえ叶わない。
完全に八方塞がりになったその時、品のある低い声が一抹の光を差し伸べた。
「——考えがございます。」
キヨミ・アズマビトが、口元を一文字に結び、険しい表情を浮かべてハンジたちを見上げていた。
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作者名：あんこもち
| 作成日時：2024年2月19日 8時
