66 ページ17
「フゥ………」
空の木箱を手に、副団長室の扉の前で一つ短く息を吐くリヴァイ。彼はらしくなく緊張していた。
帰還してから一か月の間、一度も考えなかったわけではない。むしろ一日だって忘れたことはない。常に頭のどこかでルアナのことを考えていた。なるべく早くこうしなければとも思っていた。
だが、足がすくんだ。恐らく、頭のどこかでまだ彼女の死を受け入れきれていなかったから。
「………情けねぇな」
自分への嘲笑とともに小さく呟き、リヴァイは再度ドアノブに手をかけて回し開けた。そして一歩足を踏み入れる。
目の前に、まるで主の帰りを待っているかのように静かで綺麗に片付けられた執務室が広がった。
「…………チッ」
こういう時だけ俺の言うことを聞きやがる。
リヴァイの小さな舌打ちが乾いたその部屋に響いた。
そのまま静かに足を進め、彼女のデスクの後ろにある窓を開けた。一カ月ぶりに新鮮な風が執務室を通り抜いていく。風を喜ぶかのようにデスクに置かれている本がパラパラと捲れた。
まずはデスクから片付けるかとリヴァイは木箱をデスクに置き、その本に手を伸ばしかけて、思わず身体が固まってしまった。本の先に見たことのない絵が小さな額縁に入れられて飾られていたのだ。
「…………」
手に取り、薄く被っている埃をハンカチで拭う。それはルアナが仏頂面の自分の隣で寄り添うようにして笑っている優しい絵だった。
いつの間にこんなの持ってたんだ、とリヴァイはじっと見つめた。仕事の合間で幸せそうにこの絵を見て笑うルアナが容易に想像できた。リヴァイの胸に久しぶりに愛しさがこみ上げた。
意外とこういうところあるんだよな、あいつ。
リヴァイはフッと笑うとその絵を木箱に入れ、デスク周りの片付けを始めた。
ルアナの私物は少ないが、副団長ともなると色々と書類やら本やらが多い。引き継ぎに必要なものだけ残し、彼女の私物や次の者が使えないようなものは木箱に入れていった。
あらかた机上を片付け終え、次は引き出しと一番上の引き出しを開けると、裏返された一枚の紙が出てきた。リヴァイはそれを取り出し、表に返す。
そこには彼女の綺麗な字が短く並んでいた。
『調査兵団第13代副団長ルアナ・クライストの名において、第14代副団長として次の者を任命す。
ハンジ・ゾエ
ユーリ・ケッペル
なお、序列は上に倣うこととする。
調査兵団第13代副団長 ルアナ・クライスト』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1313人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あかまる(プロフ) - 素敵な作品で終盤はずっと泣いてました…。この作品に出会えてよかったです。ありがとうございます。 (12月31日 10時) (
レス) @page32 id: eb52eba48a (このIDを非表示/違反報告)
ああ - 最後めちゃくちゃ泣きました。面白かったです！！ (9月8日 23時) (レス) @page33 id: d425432768 (このIDを非表示/違反報告)
ルリ(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました…… (2023年4月3日 0時) (レス) @page32 id: f171f4e286 (このIDを非表示/違反報告)
かりおすとろ(プロフ) - 細かいキャラ設定、原作への忠実さ、どれも素晴らしく、キャラクター・作品への愛が非常に伝わってきました。とても素人は思えぬ構成とキャラ設定、まるで公式作品を読んでいるようでした。結末も原作らしくて好きです。素晴らしい作品をありがとうございます。 (2023年3月31日 23時) (レス) id: 33ef6f580f (このIDを非表示/違反報告)
輝音翔(プロフ) - この作品何回も読み返すぐらい好きでまさかの続編ですか。ありがとうございます！とても素敵な作品の続きが見れるなんて… 応援してます！頑張ってください！ (2023年3月22日 20時) (レス) id: 0627dd355a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あんこもち
| 作成日時：2022年9月10日 8時
