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「(ポケットに入れてた物はない……俺が何者か知ってなおこの仕打ちか。なら運びの仕事はフェイクとみていいか)」
自由の効かない腕でも軽く身じろいでポケットを確認すれば、入れていた目的のものは奪われているとわかる。
渡されていた暗号、あれはここを通る鍵だった、それは間違いない
“ようこそ、新しい世界へ“
そう返した受付の男
バンド会場をそう模したようにも捉えられるがこの状況からして新しい世界とはと考えた時に浮かぶのは……
ギィィ…
「……」
扉の軋む音と共に一筋の光が部屋を灯し、それが大きくなる。途端室内にいた子供たちから恐怖に濡れた小さな悲鳴が聞こえる。寄り添っていたもの同士は互いに身を強ばらせより身体を小さくさせる
「時間だよーさあ、新しいご主人様に挨拶しに行こうか」
「(やっぱりか……)」
卑下た笑みを浮かばせながら両手を広げ近づいてくる男。ゲベげへと効果音がつきそうなその笑みは気持悪いの何物でもない。
「いや……！やだァ」
「いやぁあ！」
「大人しくしようねぇ、君どんな個性なんだい？」
扉近くにいた子供たちが無理矢理立たされ入り口前で別の男に引き渡される。胸元に何やら数字の書かれたプレートをつけられそのまま視界から消えていく。それをみてAは確信した
「(子供売りかよ……！！)っは！」
「おら。起きてるか」
目の前の光景に夢中になり近づいてくる男に気づくのが遅れた。治ってない腹部に軽く蹴りを入れられ思わぬ激痛に息が止まる。おかげで叫び出すことはなかったが痛みで身体が震える
「おい、さっさと立てよ……薬強すぎたか？」
「つっ……」
待つのが嫌いなのか間髪入れずに呆れたような物言いで背に縛られた腕を持ち上げられ身体が浮く。華奢な方ではあるがいとも容易く持ち上げてくる男の筋力は並以上のものだろう。宙に浮く身体が心許なく適当に下ろされ数歩たたらを踏む
「…おい…ちゃんと立てよなぁ。それとも俺っちに甘えてんのかぁ？」
「…つ、触るな！」
頭の悪そうなブタ顔のその男は何を勘違いしたのか途端頬を緩ませ一歩こちらに近寄ってくる。その情に歪んだ笑みに背筋が凍るような恐怖を感じつい反射で声を荒らげてしまう……状況的に逆らうような態度を示せばどうなるかくらいわかっていたつもりだったが脊髄反射にも似たその拒絶反応は止められなかった
……迫ってくる手が、自分より大きな男が、ただただ恐怖でしかない
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作者名：みけいぬこ
| 作成日時：2022年3月7日 15時
