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「スー…スー…」
「………」
い草の香りが鼻をかすめる室内で静かな寝息がAの鼓膜を揺らす
綺麗に半分に別れた髪色を無防備に散らして目を閉じ寝息を立てる焦凍
その片方の手はしっかりとAの手を握って離すまいとしており、動くことの出来ないAはその穏やかな寝顔をただただ見ることくらいしかやる事がなかった
「(焦凍、寝ちゃった…寝顔、初めて見たな)」
Aの知る轟焦凍という人物はいつでも守ってくれるヒーローな存在でとても頼もしくピンと糸が張られているような状態だった
それが日に日に甘く柔らかくなり、最近はその優しい笑みが心臓に悪いなぁと思うほどだった
「きれい…」
あまり好きではなかった言葉を、思わず零してしまう
左右で色の違う瞳が閉ざされてもなお轟焦凍という人間は綺麗であたたかい存在だった
＿＿お前は…生きていいんだ
とても懐かしい言葉だった
記憶はないけど、心がそれを求めていたんだと理解できる
きっと、忘れた記憶
救われた大切な言葉
「どうして、分かるんだ…？焦凍」
空いた手でさらりと柔らかな髪を撫でる
白髪のそれは絡まることなく柔らかく指を通り流れ落ちる
運命や奇跡がこの世界にあるのなら、Aは焦凍との出会いこそそれなのだと確信をもって言える
そして、Aにとってヒーローとはと聞かれたら迷わず彼の名前を出すだろう
＿＿俺は、お前に生きて笑っててほしい。道具でも敵でもなくてAって言う一人の人間として。役に立たなくていいんだ、ただここにいてくれ。俺にはお前が必要だから
「っ……」
もらった言葉を思い出して頬に熱が集まる
罪を犯した人間として
ゴミ溜めのような場所から人の世界に連れてきてもらえた一人の人間として
この場所をなくしたくない一心で何かをしなくちゃいけないと思ってた
役に立たなくちゃ、利用価値がなくちゃいつか捨てられる
心のどこかで僅かでもその気持ちは残ってて
どんなに優しい言葉をかけられてもその気持ちがAの行動原理から切り離されることはなかった
「焦凍に、俺は…必要…」
何がどう必要なのか、それは聞けなかった
＿＿これからは俺と一緒に生きてくれ、A
「一緒に、生きるって…どういう意味…？焦凍」
「スー…スー…ん、……スー」
彼の言葉は何故かそれが切り離されて
変に宙ぶらりんのような
くすぐったい様な不思議な言葉として心に残る
この気持ちは何と言うのだろう
．
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作者名：みけいぬこ
| 作成日時：2023年3月1日 15時
