【ヒロアカ】平和とはなにか3 (ページ12)

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「……っ……」

寒さからかぶるりと体が震える

逃げたいと思う気持ちも何故か足が床に縫い付けられたかのように動けなくて

後に獣から放たれていた殺気や敵意に充てられていたのだろうと気づいた

でも、今この瞬間は何も分からなくてただただ焦っていた

やらなきゃやられる…そんな結論に至って両指に力を入れようとした、その時

「回原待って！」

「！」

回原の目の前に肌色の何かが視界を塞いだ

女子特有の少し華奢な指

少し遅れて拳藤の手だと気づいた時にはその背に庇われていた

「あたしら敵じゃないんだよ…氷叢のクラスメイトで仲間なんだ。氷叢混乱してんだろ？大丈夫、ここは病院でもう敵はここにいない。ここは、安全なんだよ」

静かに、でもまっすぐに獣を見つめ言葉をぶつける姿は

簡単に言ったらかっこいいだった

そんなこと呑気に考えるなんてまだまだ甘ちゃんだとこれも後々反省するのだが

＿＿グルルル…

「お前の主人、なのか？氷叢は。意識混濁してんだろ、あたしらに任せてくれないか？ここは安全だって伝えたいんだ。もう悪意は、去ったから」

しばしの間、拳藤と獣は見合いあったままお互い一歩も譲らなかった

「……」

「……ありがとう、絶対傷つけないからな」

その均衡を破ったのは獣からで

拳藤から視線は外さず一、二歩下がって宙に浮いたままふいと視線を首ごと横にずらした。固いダイヤモンドのような尻尾が二度揺れる

その姿にほっと一息吐き出した拳藤は一言礼を言って横になったままのAに駆け寄る

カタカタと震えオッドアイの瞳を見開いて怯えているのがありありと見て取れるAに拳藤は首裏にそっと手を添えてやる

途端、Aと獣からピクリと反応が返ってきたが気にする素振りは見せずぐっとそのままAを起こしてやる

「氷叢、分かるか？あたしだ。ここは病院だよ」

「……っ、びょ、院……？」

「そうだよ、森で一人倒れてた所を相澤先生が見つけて助けてくれたんだ」

「相澤…せんせ、助け……？」

「そうだよ、氷叢。もう大丈夫なんだ」

大丈夫

その言葉を聞いてようやくAの瞳が揺らぎ、そして拳藤に視線を向けた。陰っていた瞳に光がさして拳藤を見る

「…拳藤……？」

「ああ、おはよう、氷叢」

穏やかに、まるで朝の日差しのようにあたたかなその微笑み

ツゥーっとAの頬を涙が伝った

「ぁ、……俺…っ……ｯｸ…」

「大丈夫、もう終わったから、氷叢。ここは安全だ」

幼子のようにポロポロとでも声を押し殺して泣くAを

拳藤はそっと優しく泣き止むまで抱きしめた

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