9 ページ37
「…かっちゃん……」
大半がテレビに釘付けになってる間
緑谷は見てしまった涙に
いつも不遜な態度の幼なじみの悲痛に顰められた眉に
気づけなかった己自身に驚愕していた
「(なんで気づかなかった、こんな…目の当たりにするまで…！)」
気を失ってしまった白の少年の頬を絶え間なく澄んだ雫が流れる
悲しみの深さを物語るそれは見ていてキリキリと胸が痛む
小さいつぶやきだったが、緑谷には聞こえた
"ジーニー"
彼はしきりにその言葉を呟いていた
縋るように、探すように、恋焦がれるように
その言葉の意味を、緑谷は知っている
目の前の幼なじみも知っていることだろう
悲惨な過去から救いあげ、失った感情を愛情をすべてを与えてくれた最初の人
「(ベストジーニスト……)……！」
そっと、爆豪の手がAの頭を撫でる
何も言わない、ただ眉を顰めどこか申し訳なさそうなその様子に緑谷は察した
爆豪はAがベストジーニストの事を忘れたままなことも
そして…
「かっちゃん、もしかしてこうなるって分かって…」
「一番大切なやつが大怪我、それもてめぇのせいで…そん時の記憶思い出して正気で入れるわけねェだろうが」
「っ……」
知らないままではいられない
大好きな人の記憶
その大好きな人が傷つけられた記憶
どちらか片方だけなんて都合のいいこと
そんなおとぎ話みたいなこと起こるわけ、ないんだ
流れるヒーロービルボードチャートのアナウンスではNO.3と紹介されたベストジーニストは欠席
ニュースでも復帰に関して明るい話はなく今どこで何をしているか誰も知らない
「相澤先生は…っ？もしかして何かコンタクトとってるかも……っ！」
焦りと混乱で上擦る声に興味もないのか、爆豪は小脇にAを抱えその場に立ち上がる。俯き前髪のせいでその表情は見えない。けれどその背中はどこかピンと張りつめていて野生動物のようだった
「かっちゃ……」
「コンタクトとってたら今こいつはこうなってねぇんだよ、クソが」
「っ」
低い、重い鉛のような言葉が緑谷に突き刺さる
浅はかなことを言った
そう後悔してももう遅い
「ん？爆豪ーA寝ちゃったんかー？」
「早すぎだろ、小学生かよ」
上鳴と瀬呂の声も聞こえないかのやうに、爆豪は黙って談話室を後にする。一人別行動をとることなんておかしな事ではない。特に気にとめられることなく日常が流れる
それに戻れない緑谷の胸は
また、ツキリと痛んだ
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 321人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みけいぬこ(プロフ) - さやかさん» ありがとうございます！楽しみにしてもらえてるのが励みになります！更新していきますねー(●´ω｀●) (2022年7月18日 8時) (
レス) id: b16ff3489c (このIDを非表示/違反報告)
さやか(プロフ) - 毎回楽しく読ませていただいてます！これからも楽しみにしてます。 (2022年7月14日 15時) (レス) id: d179a9363a (このIDを非表示/違反報告)
みけいぬこ(プロフ) - mikittyさん» 私はコメントが活力になってます( *¯ ꒳¯*) (2022年7月7日 17時) (レス) id: b16ff3489c (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - みけいぬこさん» 更新が1日の楽しみになるくらいに、楽しませてもらっています！ (2022年7月5日 17時) (レス) id: 75972ecbb8 (このIDを非表示/違反報告)
みけいぬこ(プロフ) - mikittyさん» ありがとうございます！楽しんでもらえてますでしょうか｀・ω・ (2022年7月5日 16時) (レス) id: b16ff3489c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みけいぬこ
| 作成日時：2022年6月24日 9時
