【うらたぬき】デビルズ・シンデレラ【あほの坂田。】 (ページ6)

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目の前には、応接間の扉。
少し力を込めて押せばすぐに動くであろう板の前で、私は少し荒くなった息を落ち着けていた。

すぅ、と大きく息を吸って、吐いて。

(……よし)

握った手の甲で、扉をーー叩く。
コンコン、と軽やかに音が鳴り、そして。

「はぁい」

聞き慣れた声が、耳朶を打った。
ちょっと間延びした返事が、やけに「彼」らしくて。
くす、と笑みを漏らしながら、私はゆっくりとドアを押した。

「……お待たせしてしまって申し訳ありません」

開けた視界に、飛び込んでくる応接間の様子。
そもそも「私」相手にお客様が来ることが珍しく、あまりここに入ったことがないせいか、自分の住まいだというのに何となく新鮮に感じた。

ディテールにまで凝ったソファやテーブル、エトセトラエトセトラ。

ーーそして。

「あ」

応接間に、私のものではない声が響いた。
声の主は、ソファの上。

くる、と振り返る「彼」。
揺れた赤髪、ぶつかった視線。
瞳は真っ赤で、まるで熟れた林檎のよう。

整った顔立ちの中の、大きな瞳が瞬いてーー。

「A！」

ソファから立ち上がってこちらに向き直った彼は、瞳をふわりと細め、その甘美な響きを持つ声で私の名前を呼んだ。

「仮にも、私も貴方も王族ですよ、赤の王子。呼び方にはお気をつけ下さいと……」

「ええやんええやん！俺とAの仲やろ？」

にこ、と人懐っこい笑顔を浮かべるのは、隣国、赤の国の王子で、そして。

「……まぁ、そうだね。久しぶり、さかた」

私の幼馴染、友人、親友。
ーー名前はさかた。

軽く溜め息を含んだ声でそう返せば、さかたは満足気に微笑んだ。

他の国の王族を、国にちなんだ色を付けて呼ぶのは、他国交流の上での暗黙のルールだ。
……とはいえ、幼い頃から交流がある私たちの間からはいつの間にか消え失せてしまったけれど。

私は何となく続けているけど、彼の人懐っこさの前ではほとんど無意味な気がしていた。

「久しぶりやんな、ほんと。俺一応次期国王やから、最近面倒なこと多かってん」

「ふふ、でしょうね。……まぁ、とりあえず座ろうよ。何か用事があって来たんでしょ？」

「んー、まぁ？」

「なにそれ」

くすくす。
笑い合いながら、ソファに向かい合って座る。
こんなに「私」として会話ができるのは、両親と兄とさかたくらいだ。

こんな至らない人間でも、私はこの国の王女なのだから。