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参/暗く冷たい牢の中 ページ10

ーー目を覚ましてから、一体どれだけの時間が経ったのだろうか。

仄暗く冷たい座敷牢(ざしきろう)の中、私は浅い息を吐きながらそんなことを考えていた。


あの日、お父様の部屋に行き、気を失った後。
私は気付けば、この座敷牢の中にいた。

真新しい畳と柵。
夜になると真っ暗になってしまう、狭い狭い座敷牢。

立ち上がり、歩こうとすると、何かに足を引っ張られるような感覚を覚えて。
一歩下がると、じゃら、と鎖が弛むような音が聞こえる。

足枷(あしかせ)を、嵌められていた。


(な、んで……)


考えても、考えても。
どういうことか全く分からなくて。

私は、未だに激しかった頭痛に耐えるしか、なかったのだった。



「……はぁ」


重々しい溜息を吐き、足枷を指先で撫でる。

冷たい鉄の感覚が指に伝わってきて、これが現実なのだと突きつけられるようで。

もう一度、溜息を吐こうとした時だった。


「遅くなってすまないな、A」


低い声が、座敷牢に響いたのは。


「……っ、お父様!」


顔を上げれば、そこには行灯(あんどん)に照らされたお父様がいて。

その顔に貼り付けられた笑みに、ぞくりと激しい寒気が走った。


「びっくりしただろう。だが、もう大丈夫だ」

「大、丈夫……?」


微笑むお父様の言葉をそのまま返すと、お父様は「そうだ」と頷く。

ゆらりと揺れる行灯の火が、不気味だった。


「ーーここにいれば、Aの身を脅かすものなど無くなるのだから」


お父様の口から放たれた言葉に、私は戦慄してしまった。


(……どういう、こと)


耳が、脳が、心が。
受け入れるのを、拒んでいる。

意味は理解できるはずなのに、深い混乱に陥ってしまう。
まるで、迷路に迷ったみたいに。


「ここは、どこ、ですか」


やっとの思いで飛び出した言葉は、本当に聞きたいことだったのか。

それすらも分からなくなった私に、お父様は答えてくれた。


「新しく建てた屋敷だ。お前のために、ここを造らせていたのさ」


ふと、お父様との会話が脳裏に蘇る。


『本当は、もう少し後の予定だったんだがな』

『……? お屋敷の建設が、ですか?』

『違う』


もう少し、後の予定だった。

その言葉が指す意味なんて、今なら分かる。
分かって、しまう。


「本当はもう少し後にここに連れてこようと思っていたのだがな。お前が今日、縁側に出ているのをみて、いてもたってもいられなくなったのだ」


……もう、涙すら出なかった。

*→←〇



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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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