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「国王様、姫様をお連れしました」


涼やかな声で侍女が声をかけたのは、城の一番高いところに位置するお父様の自室。

他の座敷よりも少し煌びやかな(ふすま)の部屋の中から、少しの間を置いて返事が聞こえた。


「入りなさい」


いつも通りに聞こえるけれど、娘の私には分かる。


(なんか、いつもと……違う?)


どこかーー嬉しそうな声。

それが、今起こっている「非日常」の中では異質に映ってしまって。

気持ち悪い、怖い。
そう、感じてしまった。

そんな私なんて梅雨知らず、目の前の襖は無情にも開かれ、久しぶりの景色が視界に飛び込んできた。

畳も、壁も、障子も。
何も変わらない。
十年以上前、家族で過ごしたあの部屋と同じだ。


「……失礼します」


一度礼をして敷居を跨ぐ。

座敷の奥、外を眺めていたお父様が、ゆっくりと振り返った。


「よく来たな、A」

「……っ……」


その表情を見た瞬間、ずっと感じていた「心地悪さ」が泡立つように膨らんでいくのを感じた。

それはどんどん、溢れそうになるまで膨らんで、膨らんで。
とどまるところを知らない。


(やっぱり、笑ってる)


緩く弧を描いた口元。
冷たくて暗いままなのに、柔らかく細められた瞳。

「優しさ」と「異質」を混ぜたようなその表情に、私はきゅっと唇を結ぶ。


「座りなさい。少し話をしよう」


お父様が手で差した先には、卓を挟んで向き合うように置かれた座布団。

訝しんでいることがバレないように、私は小さく微笑んで腰を下ろした。

着物が折れてしまわないように、そっと。


「お前はもうよい。茶も茶請(ちゃう)けもこちらで用意する」

「……かしこまりました」


ここまで付き添ってくれた侍女にそう命じ、お父様も私の向かい側に座った。

多分、侍女の入れたお茶を私に飲ませることに怯えているのだろう。

慣れた手つきでお茶を入れるお父様を見つめながら、そう思った。

*→←弐/崩れる日常



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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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