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弐/崩れる日常 ページ5

「姫様、国王様がお呼びでございます」


部屋で書物を読んでいた私にお父様からの呼び出しがかかったのは、障子の影の短い昼過ぎの事だった。

ここをお父様が訪れた時はまだ朝方だったのに、もうこんなに時間が経ってしまっていたのかと、書物に没頭していた私自身に苦笑いをする。

……それにしても。


(お父様が、私を……?)


珍しいな、とぼんやり思った。

普段は私が自室を出ることにすら顔を顰めるような人だったから。

それでも、お父様の呼び出しなら応えなければならない。


「分かりました。すぐ行きます」


和綴(わと)じの本を閉じ、立ち上がって棚に戻す。

着物の裾を引きながら座敷を出ると、ひとりの侍女がそこにいた。

深々と頭を垂れる彼女に小さく礼をすると、侍女に少し呆れたような笑みを零される。


「……何度も言っておりますが、姫様は私めに頭を下げる必要などないのですよ」

「あまり、敬われるのが好きではないのです。目を瞑ってください」


「ですが……」とどこか困ったような口調で言われるけれど、私は控えめに笑ってやんわりとそれを制した。


「それよりも、お父様は何処に?」


それよりも、という言葉に小さく肩を落とした侍女も、すぐに真顔に戻って答える。


「自室でお待ちです」


二度目の「珍しい」が頭をよぎった。

だって、お父様が部屋に人を招くことなんて滅多にない。

それは娘である私も同じで、最後にお父様の部屋に入ったのは、まだお母様が生きていた頃だった。


(十年以上前……か)


正直、なんだか変な感じがしていた。

ここまで「普段では起こり得ない」ことが連続で起きると、嫌な予感しかしない。


「……行きましょうか」


侍女と、自分に言い聞かせるように。

小さく呟いた私は、お父様の自室ーー天守閣最上階に向かって歩みを進める。

ぞくり、と背筋を走る寒気には、気付かないふりをして。

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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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