検索窓
今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:115,005 hit

ページ36

「……わた、しが……?」


呆然とする私に、センラくんはただただ冷徹な視線をぶつけるばかり。


「ぼくは、あなたみたいな金持ちがだいきらいなんです。お金で全てかいけつできると思ってる、汚い人たちが!」


もう、言葉が出てこなかった。
ぱくぱくと口を開閉させる私に、センラくんは嘲笑(ちょうしょう)を浮かべて続けた。


「どうせあなたもそうでしょう。びんぼうなこの村を見て、ぼくらをばかにしているだけ。……金持ちなんて、みんなそうなんです」

「ち、が……」

「ちがいませんよ。ぼくはこの目で……見たんですから」


その声に悲痛なものが混じって、私はーー


「……っ、ちがう、もん!」


涙を浮かべて、叫んでいた。
いつぶりかに出した大声は、山の木々の間を駆け抜けて響いて。

センラくんも、少しだけ目を見張っていたような気がした。


「ちがう……おとうさまも、おかあさまも、そんなことしない……! わたしも、しない!!」


溢れ出る激情を、言葉に乗せて目の前の琥珀の瞳にぶつけて。
ぽろぽろと零れ落ちる涙は、拭わなかった。


「……どうだか」


そう吐き捨て、センラくんは身を翻したーーが。

ーーその身体が、大きく、ぐらりと傾いた。
脆くなっていた崖が、崩れたのだ。


「え……」

「っ、センラくんっ!?」


落ちていく小さな身体を、私は。
……必死にその手を掴んで、引っ張った。

ぶらりと、宙に吊られるセンラくんの身体。


「……っ、うぅ……!」


手に、びりびりとした痛みが走ったのを覚えている。
子供と言えども、男と女。
同年代の子の身体を引き上げられるほどの力は、私にはなかった。


「なに、してるん……!」


苦痛の汗を滲ませる私の耳に届いたのは、敬語の崩れた訛り混じりの声だった。

それが当時の私には、とんでもない状況にいるというのに嬉しくてたまらなくて。

ふわ、と浮かんだ苦痛混じりの笑みに、センラくんは苦虫を噛み潰したような表情になって叫んだ。


「はなせ! やないと、Aまで落ちる、で!?」


鼓膜を擽ったのは、彼に呼ばれた私の名前。
……嬉しかった。


「っ、いやだよ!!」


そう、叫ぶけれど。
ずるり、ずるりと、彼を引っ張る私の身体は崖に向かって近付いていく。

落ちる恐怖も、あったと思う。

それでも、彼の手を離すという選択肢はなくて。


「……ば、か……!」


彼のその声と共に、私の身体もーー

ふわりと、宙へと投げ出された。

〇→←ー琥珀との記憶ー



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (214 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
598人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , 浦島坂田船
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。