＊ ページ33
見上げた先の甘い笑みが、目に毒過ぎて。
喉の奥から「う」とくぐもった声が漏れて、
「別にそういう訳じゃない、けど……！」
焦ってしどろもどろになる私を、くつくつと笑いながら見つめるセンラくん。
細められた目が本当に可笑しそうで、私はそれを少し鋭い視線で睨み返した。
「冗談です」
「……もう」
なんて
こほん、と咳払いを落としながら彼から視線を逸らす。
目の前では相変わらず志麻くんと坂田くんがわいわいと騒いでいた。
頭の上でセンラくんの声が響く。
「聞かへんよ、別に。Aは俺のものやないし、志麻くんと何しようとAの自由でしょ。変に詰め寄っても嫌われるだけやしねぇ」
へらりと笑ったセンラくんから紡がれたその言葉に、私は「そっか」と小さく呟いた。
胸に差し込んだのは、どこか温かい「懐かしさ」。
いつだったか、確かに感じたことのある、彼からの満ち足りた慈愛。
「やっぱり、センラくんはセンラくんだね」
くすりと笑いながら呟いた言葉に、センラくんが首を傾げる気配がした。
斜め上から視線が降ってくる。
言葉が足りていなかった自覚はある。
「どういうことか」と聞きたいのだろう。
「昔に比べて、センラくんと距離ができたような気がしてたんだ」
ぴくりと、頭の近くの肩が揺れた。
「なんとなくだけどね」と付け足した私の声は、自身で思っていたよりもずっと暗さを帯びたものだった。
それに気付いて、私は意図的に声の調子を持ち上げる。
「でも、そんなこと無かったね。……今のセンラくんは、間違いなく私の知ってるセンラくんだよ」
自分でも何を言っているのか分からなくなってきて、人差し指の先で頬を撫でた。
(……あれ)
ーー返事が、返ってこない。
不思議に思って隣を見上げるーーと。
「……あー……」
下がった目尻と、苦笑いが浮かんだ口元。
緩く開いた口から漏れるのは、言葉に悩む声。
曖昧な表情で宙を見つめるセンラくんが、そこに居た。
「避けてたつもりは、なかった……んですけど」
申し訳なさそうなセンラくんに、私は何と言葉を返せばいいのか分からなくなってしまって。
ただただ、木々の影が落ちた彼の横顔を見つめ続けた。
「ただ……やっぱり、申し訳ないと思ってるんです。『あの日』のこと」
その横顔、唇から零れ落ちた言葉に、私の瞼がぱちぱちと瞬いた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 598人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちょこ - 更新が止まってます！戻ってきてください！続き楽しみに待ってます！ (2020年7月11日 23時) (
レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください！ (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい！更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！ (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星奈 ふゆ | 作成日時：2019年7月21日 16時
