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ー逃げ道ー ページ18

「……? A、大丈夫? A!?」


ゆさゆさと、抱えているAの身体を揺する坂田。

だらりと脱力した腕が、坂田の腕から垂れている。
その瞼は落ち、声を発することも無い。

ぴり、と張り詰める座敷牢の空気。
俺の頬も引き攣るーーが。


「大丈夫ですよ。眠ってるだけです」


センラが、Aの顔をそっと覗き込みながらそう諌めた。

坂田が分かりやすく安堵の息を吐いたのを見て、センラは少し顔を顰めて続けた。


「……多分、座敷牢生活で疲れ果ててはったんでしょうね。そっとしといてあげましょ」


センラの言葉に、Aに対して微かな申し訳なさが募る。

助けに来るまで、一週間程度もかかってしまった。


(もう少し、早く来れたら……)


その気持ちを胸に抱きつつ、俺は座敷牢から踏み出る。


「とにかく、詳しいことはここを出てからだ。急ぐぞ」


言い終わるか否か、俺は予め決めていた脱出場所へと駆け出す。

坂田がAを抱えている状態だが、あの体力馬鹿なら多分平気だろう。

3人を信じて、振り返ることなく熱風を掻き分けて走り続ける。

ーー隣に、まーしぃが並んだ。


「なんか、意外やったわ」

「何が?」


ぼそ、と零した独り言を拾うと、まーしぃは温かい微笑みと共に言葉を紡ぐ。


「もう少し、俺らのこと思い出すのに時間かかるかと思っててん」

「……あぁ」


どこか嬉しげな声に、小さく納得を返す。

確かに、それについては俺も思っていた。

俺達が最後に会ったのは十数年前のこと。


「忘れてても……いや、なんなら俺らも成長してんだから、分からなくてもおかしくないんだけどな」


それだけAにとっての俺達は印象強いものだったのかと思うと、悪い気はしない。

……いや、むしろ。


(嬉しい、よな)


そんなことを思って、軽く頭を振る。

駄目だ、今は脱出に集中しなければ。


「うらさん、脱出場所どこやっけ」

「二階の屋根を伝った先……って、お前速くね!?」


気付くと隣に並んでいた坂田に驚愕の声が飛び出すと、その少し後ろを走っていたセンラが「こいつ人ひとり抱えてんねんけど……」なんてぼそぼそ言ってるのが聞こえる。

ちらりと、坂田の腕の中で眠るAに視線をやった。

「計画外」のことが起きてしまい、煤だらけになったその身。
心なしか、少し顔色が悪い。
やっぱり疲れているんだろう。

……どうか、何事もなく目覚めてくれますように。

そう願って、俺達は階段を駆け上がった。

伍/中途の村にて→←*



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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
- 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時

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