サザンカ2 (ページ5)

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もう二度とページ5

草介side

『母さん！あれの作り方教えて！』

俺が9歳の頃。

母さんは、病気になった。

ーーーあれ...？あぁ、豚カツのことね！いきなり、どうしたの？

豚カツと言っても、ただのやつじゃない。

シャキシャキのキャベツに、トマト。ほかほかのご飯と味噌汁も付いているやつだ。

さながら、定食屋さんのように、美味しかった。

俺達は、よく母さんに、それをねだった。

『母さんが入院してる時は、僕が花斗に料理を作ってあげたいんだ！』

それは、本音であり建前でもあった。

たびたび、入退院を繰り返していた母さんを見て、花斗は隠れて泣いていた。

花斗が泣いている姿を見ると、悲しい。

だから、せめて母さんの料理の味で元気付けてやりたかった。

だけど...一番の理由は。

ーーー草介はすごいなぁ！もう立派なお兄ちゃんね。じゃあ、母さんが退院した時は、草介の料理食べさせてもらおうかな？

『うん！頑張って母さんの料理覚えるから、楽しみにしてて！』

母さんは、静かに笑ってこう言った。

ーーー...草介。母さんがいなくても、しっかりご飯食べてね。これ、お守りよ。

母さんが手渡してくれたお守り。

それをギュッと握りしめた。

本音は、母さんに褒めて欲しかった。

退院した母さんに、俺の料理を食べて欲しかったんだ。

だから、豚カツだけじゃなくて、教えてもらっていない料理も本で覚えた。

ーーー兄ちゃん！すごーい！お母さんの豚カツだ！

ーーー草介...！すごいなぁ！いつの間に、こんなに立派になって...

『ヘヘッ、母さんに教えてもらっただけだよ。』

父さんと花斗は、美味しい美味しい、と言って食べてくれた。

俺達は、母さんが帰ってくる日を、指折り数えて待ち続けていた。

それなのに。

どうして。

ーーー...○○時、○○分、心肺停止を確認しました。ご臨終です。

病室に、医師の言葉が重く響いた。

父さんと花斗は、冷たくなった母さんに縋って、大きな声で泣いていた。

母さんは、二度と帰ってこなかった。