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8月、矛盾 ページ30

草介side



ーーーミーン...ジジジッミーン...ブオオオン...



うるさいぐらいの、蝉の音。

それに混じって、トラックのエンジン音も鳴り響いている。

引越しの手続き、荷物の整理も終わって


今日、俺の弟はこの家から出て行く。


後悔?


していない。


花斗に、この家から出て行けって言ったのは


花斗と俺自身の為。


これで良かったんだ


「すいませーん。全部運び終わりましたー」


業者が俺に呼びかける。


『ありがとうございます、すぐに呼んできます
ね。』


花斗のやつ、もう部屋とか片付いているはずなのに、何してるんだろう?


階段を上がり、いつものように部屋をノックする。


それでも返事がなかったので、ドアを開けた。


『花斗。』


こざっぱりした部屋で、花斗はボッーと立ち尽くしていた。

よく見たら、花斗は両手で何かを持っている。


「兄ちゃん。」


振り返って、一枚の古くて小さな画用紙がはためく。

それは、家の壁に貼ってあった幼い自分が描いた絵だった。


「これ、覚えてる?小さい頃、兄ちゃんが初めて俺に描いてくれた絵...」

『...覚えてる。でも、もうボロボロじゃん。捨てて置いた方がいいよ。』

拙い絵を見られているのが恥ずかしくて、ついそんなことを言ってしまう。

だけど、花斗は。


「捨てるなんて、駄目だろ。」


花斗は、はにかみながら言った。



「この絵は、俺の夢のきっかけだからさ。」


ああ...そうか。


花斗は、ずっと。


あんな小さい頃から、夢を追い続けて来たんだ。


だから、諦めなかった。

投げ出さなかった。

逃げなかった。


花斗、お前って本当に......




『すごいなぁ...』


「え、何が?」


ぽかんとしてる花斗。


思わず口元に笑みがこぼれる。


『何でもない。業者さん、呼んでたよ。荷物詰め終わったって。下に降りよう。」


「ん、わかった。」


花斗の後ろ姿を見ながら、思う。


花斗ならきっと、多くの人を温かい気持ちにさせるような、素晴らしい画家になれる。



だから......




俺みたいな、やつが


‘行かないで’ なんて、思ったら駄目なんだ。


泣くな、泣くな


笑え。

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作者名:ロク | 作成日時:2018年11月17日 17時

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