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幻と現 ページ21

草介side

ズルズル、麺をすする音だけが、リビングに響く。


キッチンの調理器具たちが、ひとりだけの俺を見つめている気がして、気味が悪かった。


...花斗がいなくなったら、この家に、俺一人だけになるんだよな


花斗がいなくなったら...何をすればいいんだろう


また、「さびしい」という感情が、ジワジワ溢れてくるのを感じた。


それと同時に


ありもしない幻聴が、頭を揺さぶってくる。


調理器具が喋るなんて、ありえない。


でも、正にそいつらが喋っているように、俺は聞こえた。


ーーー花斗、どっか行くの?

ーーーもう、僕達、使われないのかな

ーーー仕方ないよ、だって、草介は...


うるさい、うるさい。

...やめてくれ


ーーー自分のために料理なんて、作れないでしょ。

ーーーかわいそう、草介。花斗がいなくなったら、どうなっちゃうの?

ーーーもう大好きな料理、二度と出来ないね。美味しいって言ってくれる人も、いなくなっちゃう。


『うるさい!』


ピタリ、と幻聴が止んだ。


ゆっくり椅子から立ち上がりキッチンに手を付く。


調理器具たちを睨みつけた、その時。


本当に、最悪なタイミングだった。





『ヒュッ...ゲホッ!...アァッ...ゴホッ...!』


あぁ、しまった。


喘息...


なんで、このタイミングで...


完全に、油断してた。



『ゴホッ!...ゲホッ...ヒュッー...ヒュッー...』


焦ってポケットの中を探る。


吸入器、あれ...


手の動きが覚束なくて、上手く取り出せない。


早く、薬飲まないといけないのに.....


それでも、なかなか吸入器は、出てこない。


なんで、こんな時に限って...


あ、やばい


俺は、立ちくらみを起こして、床に膝をついてしまった。


『ヒュッー...ケホッ...ゲホッ!...ヒュッー...」


息を吸うのが、苦しい。


どうしよう...だれか、助けて...


ーーー兄ちゃん!しっかりして!


また、幻聴だ。


花斗の声...


花斗...


駄目な兄ちゃんで、ごめんな


ごめん...





「兄ちゃん!」




頭にはっきりとした声が聞こえた。


それは、幻聴なんかじゃなかった、


すぐそばに、花斗がいて、今にも倒れそうな俺を、支えてくれていた。


『ヒュッー...!花斗...っ、な、なんで...?』


花斗は、今にも泣きそうで、怒っているような顔をしていた。

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作者名:ロク | 作成日時:2018年11月17日 17時

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