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「相手は誰か知らないけど」と、こちらに目をくれず絵心さんはそういった。あぁ、やっぱり見られていたのか。ということは凪さんが迷子になったのを知っていたのでは?なら教えてあげれば良かったものの、などと脱線した思考を寄り戻す。
アンリさんがなんのことだろうと不思議そうにこちらを見ていた。
「結局、私は見守ることしか出来ないんです。ただもし、もう一度夢を追うなら彼を信じたくて」
私がそこまで話すと、絵心さんは何も言わなくなった。
アンリさんと試合のことを話しながらしていれば、前半は残すところあと5分となった。話の話題、それは自然と彼のことになる。
「久遠くん、凄く調子いいね」
「そうですね……」
まさかのハットトリックを決めた久遠さん。高いジャンプ力を生かしたヘディングとパスに見せ掛けたシュート。何ら不思議なことでは無い、選ばれてここに来ているのだからそれなりの実力は持っていて当然。
でも、それでも。
「なんか、落ち着かない」
聞こえない程度の小さな呟き。
「何か言った?」とアンリさん。私はそれに首を横に振った。
この試合が始まる前からのこの胸のざわめきが落ち着かないまま、前半終了のホイッスルが鳴った。ハーフタイムの合間に準備していたものを整理して、時間を見計らいそれぞれのロッカールームに向かう。
「───な、─────だ」
「───!!次に─────から、────?」
チームWのロッカールーム前。何故か体が入るなと止めていた。何か話しているようだがよく聞こえない。いや、気にしたところで。
気合を入れて入ろうとすれば、鰐間兄が部屋から出てきた。
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作者名:shiori | 作成日時:2024年1月20日 19時