･ ページ11
me side
ブリキ加工の細いアーチを覆う蔓草が、昼下がりの太陽を遮って影を作る。一日のうち最も気温が上がる時間帯にも関わらず、この場所には涼やかな春風がそよいでいる。
幹部専用バルコニーの硝子窓を開け放ち、優雅に椅子に腰掛ける、今回の主催者。穏やかに、上品に笑う様子は艶やかさすら演出し、陽の光が後ろから差し込む様子は神々しささえ醸し出していた。
薄く引き結ばれた唇から、中性的なテノールの音色が流れ出る。
os「…ふふ、緊張しとるん？」
『…外交官様と2人きりは、初めてなので』
os「せやねぇ。こうして一緒にお茶する機会、なかったもんねぇ」
細く繊細そうな茶髪を揺らしたそよ風が、焼きたてのクッキーの香ばしさと、ベルガモットの落ち着きのある芳香を漂わせる。詰めていた息を吐いて椅子に座り、神秘の琅玕の瞳を隠す外交官様を見つめる。
メイドも、護衛を務めるひとらん様さえいない空間、私だけに許された秘密の茶会は、優越感を感じさせるのには十分だった。
『…アールグレイ、ですか？』
os「お、分かるめうね！折角のお茶会なんだし、俺の一番好きな紅茶にしたんよ」
ミルクはいる？と聞かれたので頷いて返し、馴れた手つきで紅茶を淹れて下さるのを眺める。コトン、とソーサーの上に置かれた馨しい香りのミルクティーは、正しく魅力的という言葉が似合う美しさだった。同じようにカップを持つ外交官様の姿は、女性と言われても可笑しくないほどに奇麗で。
『…』
os「…、？どうかしためう？」
『…ぁ、いえ。外交官様の美しさに、思わず目を奪われてしまいました』
素直に言葉を並べれば、凄腕の交渉者は深緑の瞳を見開いて動きを止める。
os「お世辞が上手めうね。こんなに口が達者だったなんて」
『そんなことはありません。むしろ私は、何故そこまで美しさを保つことが出来るのかが気になってしまいます』
談笑か、腹の読み合いか。
みぞおち辺りがうずうずと蠢き、落ち着かない雰囲気のまま茶会は進む。外交官様の巧みな話術に翻弄されながらも会話自体は軽やかで、クスッとするような小話をしてくれる、気さくな話し方だった。
os「じゃあ、そのお父さんに憧れて軍人になったんや」
『はい。人を救える軍人になりたいと、ずっと思っておりましたので』
冷えてしまったミルクティー。クッキーの甘さが溶け出る美味さは、軍人にならなければ味わえなかっただろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1383人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽてち(プロフ) - もう1人の私と私の会話で苦しくなりました。壊れてゆくのを現するのがお上手すぎて頭が上がりません！花言葉を知っていた私は見た瞬間奇声を上げながら号泣。人には得意不得意あって尊重するべきと学べる素晴らしい物語でした。有意義な時間をありがとうございました！ (2023年4月11日 8時) (
レス) id: b72c422986 (このIDを非表示/違反報告)
ビニール袋vll - コメント❌小説⭕️ごめんなさい誤字ってしまいました (2022年12月2日 16時) (レス) @page42 id: dc34629a9d (このIDを非表示/違反報告)
ビニール袋vll - そして作者さん、とても感動して素晴らしい作品を描いてくださり有難うございます。素敵なコメントを書いてくれたあなたに幸あれ (2022年12月2日 16時) (レス) @page42 id: dc34629a9d (このIDを非表示/違反報告)
ビニール袋vll - ネコさん» 嫌いなら嫌いで自衛するべきです。わざわざここのコメ欄に書く必要はあるのでしょうか。下の方々のようにとても楽しんでいる方達もいます。そのようなアンチコメントは心の中でとどめておいてください。とても不愉快です。 (2022年12月2日 16時) (レス) @page42 id: dc34629a9d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ - 人に酷いことしたのに幸せになる物語嫌い (2022年8月21日 17時) (レス) @page42 id: 0cd09c89d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Toki | 作成日時：2021年3月4日 7時
