60 ツルネ。 ページ16
水景side。
朝、少し早く道場に入ると、そこには湊の姿があった。
「おはよー湊。早いね」
「おはよう、A先輩。A先輩も早いじゃん。委員会？」
「あー、、いや、今日は、、ね、なんとなくだよ。君に会える気がして」
少し恥ずかしくなりながらそう言うと、湊は「なんだそれ」とおかしそうに笑った。
道場に正座する湊の隣に座る。
「湊。ありがとう」
「え？」
「ずっと言えてなかった」
「俺、感謝されるようなことしたっけ、、？」
不思議そうにする湊に、私は頷いた。
「初めて会って間もないくらいに、君は、弓を置こうとしていたマサさんを引き止めた」
「君がいてくれてよかった。私もマサさんの射が好きで、ずっと見てきた。けれど、苦しんで、弓を置こうとしていた彼を引き止めることはできなかった、から」
「執着、思慕、尊敬。そんなものとっぱらって、マサさんの手を無理やり引いてしまった君に、私は感謝してる」
「＿＿＿＿＿」
「何も出来なかった私が、凄く馬鹿らしいな」
掠れた声で呟くと、湊はふとこちらを見た。
「そんなことない」
「え」
「そんなことないよ。俺は、マサさんと同じくらいA先輩に憧れてるんだ」
「え、、、マサさんになんて、遠く及ばない私に、、、？」
なんだこの子。本当に分からない。そう思っているのに、心は勝手に嬉しくなっている。
「それでも俺にとっては、憧れの音なんだ」
弦音に憧れてきた彼のその言葉は重い。
「俺が弓に戻ってこられたのは、A先輩のおかげでもある。ありがとう」
緑色の、綺麗な目。
引き込まれそうになって、思い出した。
『Aー！最近弓道部にすごい子入ってきたの！！だから戻ってきてよ！』
『無理。けど、見に行くだけなら』
＿＿＿＿＿ｶｧﾝｯ！
『ね！すごい子！ええっと、、、鳴宮くん！』
「＿＿＿＿＿、、、うん」
「これからも、君の弦音を聞かせてよ」
弦なき弓に羽抜け鳥。
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作者名：co2 | 作成日時：2023年7月2日 23時
