妖しげ儚げ裏世界 (ページ22)

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裏世界の裏事情―拾玖―「親しい人を守りたい青年の話」ページ22

この人……今、なんて……

俺は、たった今、〝京都に行け〟と言った国府田さんを見た

……それほど、あり得ないことなのに

「……あれ、聞こえなかった？」

「……いえ……聞こえました

〝京都に行け〟って……」

「そうだよ」

そうだよ……って……

「……でも……俺が行ったら……」

「安心してよ、俺はそんなに弱くないし

それに東京は京都に比べて、あいつらの〝力〟も〝数〟も……弱いからね

俺一人でも楽勝だ」

それでも、国府田さん一人じゃ限界がある

……国府田さんが強いのは判ってるけど

「榮倉君は〝あいつら〟にしてみりゃご馳走だ。しかもあの男に会ったときた

〝あいつら〟が多くいる街に一人で行くのは
危険過ぎる」

国府田さんは俺の隣に並び、息を吐くように
ゆっくり呟いた

「……確かにそうですけど」

「遠慮するな、奉日本

俺は大丈夫だから」

国府田さんはいつものヘラリとした顔で笑う

(……いつも、こんな顔するんだ。この人は)

周りを安心させるために自分が傷つく方を選ぶ

そういう人なんだ

「俺は、お前が行った方がいいと思うが……

お前の考えは尊重しとくよ

じっくり考えた方がいい」

「…………」

「……じゃあ、俺、仕事行くから

考えとけよ、〝たっきー〟」

「……え、ちょっ、待ってくださ……

……って、もういないし……」

国府田さんは〝仕事〟のために出かけ

俺の隣からいなくなっていた

カツ…カツ…カツ……

誰もいない路地で俺の靴音が鳴り響く

暫く歩いた俺は立ち止まり

〝何か〟を落ち着けるために意味もなく眼を閉じる

「守れるのかな……俺」

俺は握っていた拳を開いて

自分の掌を見つめた

電柱の上にいた〝刺青の男〟に見られていることも知らずに……