89話 ページ46
‐
不可思議な状況だった。
確かに谷原章也である筈の青年は
己の名前を口にして
鏡に写る己の姿を見ては嬉しそうに…愛おしそうに涙を流す。
__まるで、子の成長を喜ぶように。
こくり、と傍観する与謝野の喉が鳴る。
解離性同一障害
彼女の頭にその言葉が浮かぶ。
…思い当たる節が無いわけではない。
むしろ現状は思い当たることしかない。
ぐっと彼女は唇を噛んだ。
荒事を領分にする武装探偵社、現状は設立から最大の危機に直面している。
今のところ表立った犠牲は無いが、それもいつまで続くか分からず
下手を打てば自分がそうなるかもしれない極限の緊張状態。
そんな状況下で彼は後輩達のメンタルケアも行っている。勿論、彼のメンタルケアを周りの大人達が蔑ろにしてきた訳では無いが…。
太宰達には劣るものの探偵社の頭脳派の1人である彼は…
二十歳にも満たない青年の視野はどこまで広く、そしてかかる負担はどれ程の物か。
「(妾の_)」
「違うよ与謝野さん」
「乱歩さん」
ぽん、と彼女を落ち着かせるように肩に手が置かれる。
振り返れば、そこには何時もは姿を隠す翠の双眸が眼鏡の奥から真っ直ぐに章也を見据えていた。
「あれは
「えっ」
「この僕が言うんだから間違いない。」
でも、と言いかける彼女に被せるように確かに名探偵は言い切った。
彼なりの“君は悪くない”と言う言い回しに気付けない程の浅い関係ではない。
「それならあれは一体…」
「簡単だよ、不可能を容易に可能にするなんて僕達の周りに溢れてるだろ?」
「異能力、か…」
「正確に言えばその
ポートマフィアとも、組合どころか
この抗争にも関係はない。
その証拠に」
「…妾が生きている」
「そういうこと」
瀕死の重傷のみ、という条件はあるものの
どんな怪我も忽ち治すことが出来る彼女の存在はまごう事無き、探偵社の要。
社員である章也の体をある種乗っ取った異能者が敵対するポートマフィアや組合であるのならば…彼女は既にこの世に居ない。
「つまり章也が異能をかけられたのはもっと昔。それこそ僕達と出会う前に。
そして今更発動するのはあり得ないはずだった
_だから喜んでる。
本来なら目にすることが出来ない章也の成長に。文字通りの奇跡に。」
それじゃまるで、と彼女は小さく呟いた。
その言葉に応えるように、乱歩は頷いた。
「彼は__」
175人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
最小幹部 - 蓮Kさん» 最近そんな感じになってきてますね、キャラがブレにブレまくってます (2019年6月4日 5時) (レス) id: 4419a0d4d5 (このIDを非表示/違反報告)
蓮K - 氷室と赤司をたして2でわったか? (2019年6月3日 22時) (レス) id: 81a8b97a68 (このIDを非表示/違反報告)
最小幹部 - さん» コメントありがとうございます!そう言って頂けると有難いです…! (2019年1月26日 10時) (レス) id: 4419a0d4d5 (このIDを非表示/違反報告)
- 続編おめでとうございます!この作品すごく好きです!ゆるゆるしてるかと思いきやしっかりと考えていたり、夢主くんの過去がとても気になります! (2019年1月24日 19時) (レス) id: a84576bae2 (このIDを非表示/違反報告)
最小幹部 - アオさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けるように頑張って行きます! (2019年1月10日 20時) (レス) id: 4419a0d4d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ