勝率 ページ3
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研磨がすきだ。
単刀直入にいう。研磨がすきだ。
今朝や昨夜あんなべたべた触っておいて、って思われるかもしれない。っていうかあんなのはまだいいほうで、いつももっとべたべたた触っている。わたしが好きなのに照れないでいられるのは、研磨がすきでも恋愛はすきじゃないからだ。
「今日は黒尾さんといかなくていいの」
「クロとはいつもいってるし」
別に研磨がいなきゃしんじゃうとか、生きていけないとか、そういうものじゃないとおもう。惰性で交流をつづけていて、気がついたらすきだったってだけ。両思いになるつもりもない。
黒尾さん泣かない?かわいそうーと笑ったら、研磨が顔を顰めた。
「さむい」
「研磨さむいの苦手そう」
「あついのもさむいのも苦手」
「あーー、ぽい」
ぽい、ってなに。と睨まれる。大きい目と可愛い顔に睨まれても怖くない。いっぽ、にほ、さんぽ。前にでて研磨の頬を両手で包み込んだ。うわ、つめたい。
つっぱねられるとおもったけど、意外にも研磨は目を細めて心地よさそうにした。
「Aの手異常なほどあったかい」
「子供体温だからねえ」
パッと手を離して、横に並んで歩く。いけないいけない。わたしが寒くなってしまう。ふーふー。と自分の吐息で手をあっためていたら、研磨に手首をつかまれた。
な、なに。と横目で研磨を見る。研磨ほど寒がりではないけど、寒いとは感じるので、あまり体を動かしたくない。
「どうしたの」
「俺と手、つないでてよ」
「えっ」
そのまま指が絡まって俗に言う恋人繋ぎの状態になった。む、むりだ。すきとかきらいとかのはなしじゃなくて、いやすきなんだけど、そういう話じゃない。この、わたしが、いや、わたしは、こういう特別なイベントに慣れてない。するのはいいけどされるのは苦手なのだ。わたしの中のどろどろとした想いがわたしを苛んで視界がゆらぐ。
わたしは馬鹿な人間である。だからいつもアホみたいにベタベタ研磨に触るし、距離を詰める。研磨は頭がいい。だから、受け入れてくれる。ただそれだけ。
距離は近くても、あくまでも、友達としてだったでしょ。ねえ。
「冬のさむさで、おかしくなったの」
絞り出した声は、らしくもなく震えていた。
「ナセに、似てるから?」
出やしないのに涙が止まらないような感覚だった。
「べつに」
「Aだからいいかなって思っただけ」
いつもみたいにひどいひどいうわーんとか、やさしいじゃんきゅうにーとか、笑えばよかったのかもしれない。研磨はわたしの体温に惹かれただけかもしれない。
でも、一層強く握りしめられたとき。
崩壊がはじまったな、と思った。
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作者名:そあ | 作成日時:2023年12月10日 22時