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寒くなってきた冬の夜、
よろよろ、と帰路へと歩く。
「…ふぅ、」
靴擦れした足はじんじんと痛んで、
一日中コンピューターを触り込んでいた体は肩が凝っていた。
山瀬A。31歳。
大学を出て、この仕事に就いた。
デキル女、を夢見て仕事を始めたけれど、
現実はそう、甘くないらしい。
休みの日でもかかってくる電話。
定時で帰ろうとしても先輩から預けられる資料の山。
すべてから、逃げ出したい。
だけど、逃げ出せない。
．
横断歩道を渡る。
よろよろ、とおぼつかない足取りで、歩道へと向かっていったけど。
…クラクションの音が聞こえて、トラックの明かりが私を照らした。
「…ぁ、」
あ、死んだ。
．
まるでゲームのプレイヤーに語り掛けるように、ちら、とその言動が覗いた。
…逃げられるんだよ。やっと。
あの絶望から、抜け出せる。
．
そう、思ったのに。
「あっぶない……、気を付けてよ、ほんとに」
「…えっ、？」
車に衝突する直前、誰かに引っ張られて、
私は腕の中へ。
…ありがとうございます、
そうやって、その人の腕から抜けようとしたとき、
「…えっ、」
車の明かりに照らされた顔は、間違いなく、
．
あの、国民的なアイドル、だった。
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作者名：あんさ | 作成日時：2020年6月12日 17時
