Ep.4 ページ5
「緑谷くんは？」
彼は少し、躊躇する素振りを見せて、そして。
「僕も、雄英受けてみようと思って………た、確かに無理かもしれないんだけど！やってみないとわかんないし！！」
「わたし、無理なんて一言も言ってないけど」
爆豪くんに言われたのか。
緑谷くんがオドオドしているのには大体彼に一因があったりする。
「お互い頑張ろうね」
「……うん！」
絶対受かるよ、と気休めにもならないウソを吐くことは出来なかった。
私は腕時計に目を向けた。
さて、そろそろ時間だ。行かなくちゃいけない。
けれど。その前に。
「緑谷くん、ちょっと後ろ向いて」
「え？」
彼の両肩を掴んでクルリと後ろを向かせる。そして———肩の上の空を切るように、手刀を一振り。
肩の上に居座っていた小さな化け物が、「ギァピぁ」と変な呻き声と共に振り払われて、消えた。
「もしかして、お祓い？うわ、肩軽くなった！」
「うん。なら、よかった」
無個性だからなのか、なんなのか。緑谷くんはよく化け物につかれていた。昔からそうだった。
そんな彼に付いた化け物を退治するのも、私の仕事だった。もちろん化け物は私以外の人には見えないから、いわゆる"お祓い"だと言って。
この歳にもなって、こんな胡散臭い話を信じてくれる人は、緑谷くんくらいしかいないだろう。
「それじゃあね、私、これから用事があるんだ。ばいばい」
「あっ、ちょっと待っ———！」
私は半ば強引に話を終わらせて、その場を離れた。
緑谷くんといると、苦しくなる。嘘をついていることが苦しくなる。同じ無個性でも夢に向かって努力している姿が、眩しすぎる。
眩しすぎる光は、直視できない。
ああいう人が、正しく評価されるべきなのだと思う。誰よりも報われて、然るべきなのだと思う。なのに、彼には何も与えられていなくて、逆に私みたいな人間に、妙な力が与えられていたりする。
だからこの世の中は、やはり理不尽に満ち満ちている。不平等な現実が、そこかしこに落ちている。
あぁ、クソ。
心の中で悪態をついて、私は今度こそ帰路についた。
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作者名：やなり | 作成日時：2023年1月9日 20時
