Ep.1 ページ2
「残念ながら、娘さんは無個性ですね」
病院で告げられた、その言葉を聞いた時から、後のことを覚えていない。
とにかくそれが衝撃で、私にとっては認めがたい事実で———言外に、お前は異者なのだと、そう言われた気がして。
自分だけが一人、世界から乖離している、そんな錯覚さえ覚えた。
それは、もしかしたら、望む望まないに関わらず、自分はいつかヒーローになるものなるのだと、なるべきなのだと………なりたいと、そう思っていたせいなのかもしれないけれど。
だったら。
私が、無個性だというのならば。
そこにいる化け物は、一体なんなの？
絶望の淵に立たされた私の視界の隅で、この世のものざらぬ異形の化け物が、行くあてを探し求めるように、蠢いていた。
銀野Aは無個性である。
それを知った日から、周りの態度が冷たくなった。
両親も、幼稚園の友達も、幼稚園の両親も。
数少ない例外を除いた、ほとんどすべての人だった。
どうやら私は、みんなとは違うらしい。
初めてそれを理解した。四歳の時だった。
その時から、周りの全てが敵に見えるようになった。向けられた視線は大抵が侮蔑のものか、憐憫の情を含むもので。
「アイツ無個性なんだってよ！」
「無個性の雑魚じゃねーか！」
「可哀想ねぇ、あの子のご両親、ヒーローなんでしょう？」
「まさか生まれてくる子供が無個性だなんて思わなかったでしょうね」
私は個性を持っていない。
みんな、持っているはずのものを。
「お、おかぁさん、あそこに何かいるよ。やめようよ……ねぇ、やめようよ」
「何を言っているの？何もいないじゃない」
私には化け物が見える。
みんなには見えない化け物が。
そして私には———その化け物を、どうにかできる力がある。
みんな、持っていないのに。
みんなとは違うことが怖かった。誰にも認めてもらえないことが怖かった。
誰にも、肉親にさえ、認めてもらえないことが、苦しくて、息がうまくできなくて。
幼い私には、どうしようもなかった。
だから———嘘をついた。
「お父さんっ、お母さん！」
———個性の、虚偽申告をした。
「私の"個性"、出たよ！」
小学一年生の時に登録された私の個性は、こう表記されている。
———個性：身体強化
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：やなり | 作成日時：2023年1月9日 20時
