9話 ページ9
＊
「いま何時だと思って」
扉から覗いたのは、互いの親友だった。
苦言を呈しかけていたロディはその口を開いたまま固まり、数秒の後、Aに抱きついた。
同年齢の体重を一身に受けた病み上がりのAは、松葉杖から手を離すこともできないまま背中から地に落ちる。寸での差でAの背に腕を回していたロディが手をついたため、最悪の事態は避けられた。あのままいっていれば、Aは衝撃で気絶していただろう。
地面に転がったAは杖を離してロディをつよく抱きしめた。生きている。すこし、痩せたような気がした。ロロとララは元気だろうか。変わりはないかな。
バカヤロー。どれだけ心配したと思ってんだ。あの日雨が降りそうなことは感じていた。泊めてやれば良かった。翌日落石でこどもが搬送されたと聞いた気持ちがわかるか。弟妹たちも酷く心配した。生きている。
いきていてよかった。
しばらくの間寝転がっていたロディとAは、そのうちなんだかおかしく思い、クスクスと笑いが込み上げてきた。深夜に土まみれ。かたや使い古した薄い服。かたやシンプルな病衣。大声をあげて笑ってしまいたかったが、空に浮かんだ月が2人の理性を留めていた。近所迷惑は良くないことだ。
ロディはゆっくりと起き上がると、Aに手を差し伸べた。
「で、なんで来たんだよ」
軽く土を払いトレーラーハウスに入る。ロロとララが寝ているので、ロディとAはちいさなちいさな声を出す他なかった。
コップに注がれた水を飲んでからAが答える。
「お前に会いたかったから」
「ンな理由で病院抜け出すヤツがあるか」
「ここにいる」
Aの行動原理は至極こどもだった。会いたかったから会いに来た。
まっすぐで、率直なAの言葉にロディは口を尖らせる。いつの間にか起きたピノがAの頬に擦り寄り、花が咲いた。お決まりの流れに、ロディもAもあたたかな気持ちになる。
ロディには後ろめたいことがあった。
いつかのAも秘密を抱えていたため、何か隠し事があるとすぐに勘づく。ロディは何も聞かないでほしい気持ちと、誰かに話してしまいたい弱さが同居していて、ぐらぐらだった。おとなにならなければならないロディは、そのどちらもひとりで選ぶことができなかった。迷子のおとなは親友に救けてほしいと思った。このまま帰ってほしいと思った。
ロディにはもう、何が正解なのかわからなくなっていた。
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緑猫(プロフ) - ねこさん» こちらこそ、読んでいただきありがとうございました！ (2021年9月28日 22時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございました (2021年9月28日 15時) (レス) id: 0e99721aee (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - nanoka(*´∀｀)さん» コメントありがとうございます！リクエストもありがとうございました！いつでもいらしてください！ (2021年9月7日 10時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
nanoka(*´∀｀)(プロフ) - まず、完結おめでとうございます！ついつい何度も読み返しちゃいます。リクエストのもありがとうございます！お疲れ様でした！！ (2021年9月7日 0時) (レス) id: 36fe9cda9a (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - 枝豆オタクさん» コメントありがとうございます！とっても嬉しいお言葉です…！ぜひ、またいらしてください。 (2021年9月6日 19時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年8月24日 18時
