轟とシンガー(リクエスト) ページ30
＊
「すげえな」
轟がAの演奏を聴いたのはたまたまだった。
幼い頃から娯楽に触れる機会のなかった轟は、文化祭で聴いたクラスメイトの歌声とはまた違う感覚に、上手く当てはまる言葉が出てこなかった。Aの前に立つ男は、小さく口を開けて目を瞬かせる。
「まあ、これで食ってるし」
自身と変わらぬ目線。しかし先の事件でも解決に大きく貢献した異国のヒーローがこどものような反応を見せる様子に、Aはつい可愛げのない返しをしてしまった。
病院の中庭で、Aは病院から頼まれて小さなライブを開いていた。ターゲットは入院するこどもたち。休憩中の看護師たちもささやかな会場へ集まっていた。
昨日突然決まったことでロディたちも知らされていなかった。そのため、売店帰りの轟がAのハイトーンボイスを聴音できたのは、繰り返すようだが本当にたまたまだった。
多くの人を笑顔にさせたAもまた、ヒーローのようだと轟は思う。演奏が終わり、群がっていたこどもたちを見送ったAは轟の手伝いのもと、コードを巻く。
「俺たちも学校でバンドをやったんだが、それとはまた違った雰囲気だった」
「バンド？授業の一環で？」
ヒーロー学校の想像がつかないAは、朝から晩まで戦闘訓練や法律、経営などについて学んでいると思っていたため、轟の言葉に驚いた。
自力で避難することが難しいこどもやお年寄りの扱いに慣れるため、託児所や老人ホームに行くならまだしも。
「いや、文化祭の出し物で」
「なにそれ」
「……こっちに文化祭はねえのか？」
頷いたAに、轟は思わぬ異文化交流をすることになった。片付けを済ませ、日陰にあるベンチに腰かけて轟は文化祭について説明する。少しして、クラス単位で催しを行う行事だとAは理解した。
ショートたちのバンドを見たいと言うAに轟はスマホを取り出す。誰かが録画していたものがA組に回ってきたものだ。
再生ボタンを押した画面は最初こそ全体を撮っていたが、次々と展開されるパフォーマンスであちこちに飛ぶ。バンドにはもちろんのこと、"個性"の使用を許可されたからこその多彩な出し物にもAは釘付けだった。
瞬きをするのも惜しいと言わんばかりなAに、轟は心地の良い満足感を得る。
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緑猫(プロフ) - ねこさん» こちらこそ、読んでいただきありがとうございました！ (2021年9月28日 22時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございました (2021年9月28日 15時) (レス) id: 0e99721aee (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - nanoka(*´∀｀)さん» コメントありがとうございます！リクエストもありがとうございました！いつでもいらしてください！ (2021年9月7日 10時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
nanoka(*´∀｀)(プロフ) - まず、完結おめでとうございます！ついつい何度も読み返しちゃいます。リクエストのもありがとうございます！お疲れ様でした！！ (2021年9月7日 0時) (レス) id: 36fe9cda9a (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - 枝豆オタクさん» コメントありがとうございます！とっても嬉しいお言葉です…！ぜひ、またいらしてください。 (2021年9月6日 19時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年8月24日 18時
