14話 ページ14
＊
温暖なオセオンの冬はそんなに寒くない。
何やら物騒な事件が連日報道されているが、国外であるならAは特に気にしなかった。例えそれが聞き覚えのありすぎる団体だったとしても。肌身離さず持ち歩いている手帳で予定を確認し、押し花で作った栞を指でなぞる。鮮やかな青色だったそれは、いまではすっかり色褪せていた。
天気に恵まれたことを感謝しながら、ギターケースを背負ったAは家を出る。
今日は久しぶりに依頼でもなんでもないストリートライブだ。道すがら、ご機嫌だねと話しかけてくる人々に今からの演奏を宣伝しながらAは歩く。
Aのライブを聞きに行くんだと笑顔のこどもに「特等席を用意してやるよ」とAは抱きあげてやった。
広場。地下鉄の出入口があるため、できるだけ離れたところに陣取る。人が集まると利用客の邪魔になるからだ。
準備のためAは早めに着いたつもりだったが、そこにはもうチラホラと人集りができている。思わずぽんと花が咲いた。
「A〜！」
セットを終えチューニングをしていると高い声が聞こえてAは顔を上げた。いつの間にか、かなりの人が来てくれたようでAは嬉しく思う。声のする方に手を振ると歓声があがり、Aは頬を赤らめた。
健全な思春期としてモテるのは心地好いし、ちょっぴり恥ずかしい。先ほど出会ったこどもが「A照れてる！」と指をさしたので、Aは得意げな顔で返してみせた。
回数を重ねライブが板についたAは慣れた様子で挨拶もそこそこに、メロディに言葉をのせる。構えられたスマホは、もう気にならない。自身の音だけを感じて、Aは世界をつくる。Aの半分も生きていないこどもが顔を真っ赤にして興奮している。同世代からお年寄りまで、みんながみんな聴き入っている。
頑固として島国を出ないAの演奏を、どうしても生で聴きたいファンが海外からオセオンを訪れていた。Aはもう、立派なシンガーだった。
いちばん聴いてほしい人たちに届きますように。Aは心を込めて言葉を紡ぐ。
3曲目の終盤。変わらぬ友情を誓い合う少年たちの想いを歌うAの演奏は、突如響いたサイレンの重なりによってかき消された。夢から覚めた観客が何事かとざわつく。手を止めたAからは、立ち上がっても人の壁で何も見えなかった。
ただ、何かよくない非日常があることは確かだった。
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緑猫(プロフ) - ねこさん» こちらこそ、読んでいただきありがとうございました！ (2021年9月28日 22時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございました (2021年9月28日 15時) (レス) id: 0e99721aee (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - nanoka(*´∀｀)さん» コメントありがとうございます！リクエストもありがとうございました！いつでもいらしてください！ (2021年9月7日 10時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
nanoka(*´∀｀)(プロフ) - まず、完結おめでとうございます！ついつい何度も読み返しちゃいます。リクエストのもありがとうございます！お疲れ様でした！！ (2021年9月7日 0時) (レス) id: 36fe9cda9a (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - 枝豆オタクさん» コメントありがとうございます！とっても嬉しいお言葉です…！ぜひ、またいらしてください。 (2021年9月6日 19時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年8月24日 18時
