12話 ページ12
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タクシーに乗ってあてがわれた病室に戻ったAを迎えたのは、母親だった。
Aが抜け出してから帰ってくる間に、空の様子は変わらず真っ暗だったが、お粗末なAの計画は筒抜けだったらしい。椅子に腰かけ、憔悴した顔の母親を気遣ってAは慎重に言葉を選んだ。
「もうスラム街には行かない。そう約束してきた」
驚いた母親は覚悟を決めた息子の表情を見て、その言葉に嘘がないことを知った。どれだけ悩ませただろう。どれだけ苦しかっただろう。母親とて鬼ではない。友を思うAの気持ちがわからないでもなかったが、それでも母親にとって譲れぬものが息子と、その将来だった。どうしても思想団体に関与する家族を大切なものの枠組みにいれることができなかった。
おとなは、捨てきれないこどもの分まで選んでやらなければならない。
「おとなになったのね」
「だといいな」
大丈夫。Aもロディもまだまだ小さい。いまは苦しいかもしれないが、成長するにつれてきっと互いのことを忘れるに違いない。新しい友達を作って、恋人とデートして。楽しい思い出で過去を塗り替えていくのだ。
Aよりも何倍も生きてきた母親はそう考える。
それから問題なく退院したAは、母親の提案に従い引っ越しをした。少し栄えた街から都市部へ。誰もソウル家のことを知らない街だった。
立ち並ぶビルに圧倒されるAに、母親はオセオン最大の都会よと得意げに教える。Aは新しい学校に通いながら習い事を始めたいと思った。都市部での暮らしを前向きに捉えるAに、母親は喜びながら評判の良いギター教室にいれてくれた。
元々音楽が好きで歌が上手かったAは、ギターの才能もあったらしい。何年も講師を続けるギター教室の先生が目を見張った。同じく教室に通う生徒たちからも素直な賞賛を受ける。
Aはさらに音楽が好きになった。
数ヶ月が経ち、Aのことを気に入っている教室の先生が作曲を教えてくれるようになった。あまり話を聞くと、Aの感性が他人に染まってしまうような気がしたのでほどほどに頷く。
Aは駆け引きを覚えていた。
新しいスクールでも友達ができ、半年ほどで彼女ができた。Aはクラスも学年も越えて関わる人間の幅を広げる。たくさんの友達ができたが、その中の誰もがソウル家を知らず、またロディのように親友になりたいと思える人はいなかった。
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緑猫(プロフ) - ねこさん» こちらこそ、読んでいただきありがとうございました！ (2021年9月28日 22時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございました (2021年9月28日 15時) (レス) id: 0e99721aee (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - nanoka(*´∀｀)さん» コメントありがとうございます！リクエストもありがとうございました！いつでもいらしてください！ (2021年9月7日 10時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
nanoka(*´∀｀)(プロフ) - まず、完結おめでとうございます！ついつい何度も読み返しちゃいます。リクエストのもありがとうございます！お疲れ様でした！！ (2021年9月7日 0時) (レス) id: 36fe9cda9a (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - 枝豆オタクさん» コメントありがとうございます！とっても嬉しいお言葉です…！ぜひ、またいらしてください。 (2021年9月6日 19時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年8月24日 18時
