スメールのにわかモブ (ページ6)

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目を覚ますと見知った天井と覚えのある布団の感覚があった。私の家だ。変わりない。

ただひとつ違うとしたら、この安っぽい部屋の中にひとつ、美しい金色の彼がいることだろう。

A(ああ…本当に申し訳ないことをした…)

椅子に座り腕を組んだまま寝ている彼に何も言えずただボーっと彼の顔を眺めていた。

酒場に半強制的に連れてこられた私は、緊張のあまり食事の味も分からず、あんなに好きな酒の味さえ満足に楽しむことが出来なかった。ただただ彼が話す一切にええはいとかろうじて絞り出した脳直な相槌を返すことのみが私をその場に人として留まらせた唯一だった。それに気づいたのか定かでは無いが、彼が不意に私の目を見つめてきたので、それについて私は本当に本当に気が気ではなくなってしまい、どうしたものか度数の高いアルコールをグイグイと煽ってしまった。結果がこのザマだった。

酔いつぶれたと言うよりほぼほぼ急性アルコール中毒に陥ってしまった私は、なすすべもなくただ申し訳ない思いで彼におぶられて帰宅したのだ。

A(思い返せば思い返すほど目を逸らしたくなる…)

寝ている彼の傍にはベッドテーブルにのせられた水差しがある。きっと私が起きたとき用に彼が汲んでくれたのだろう。何に対しても気を配る彼のことだから、人の家のものを勝手に触ることは抵抗があっただろう。それでも最低限に、最大限の気遣いを私にしてくれた。送ってしまえばすぐに帰ればよかったはずだ。そのささやかな完璧にああ、確かにこの人は画面越しに見ていたあの彼なのだと実感した。同居人への振る舞いを知っているからこそ、これは彼なりの優しい他人行儀なのだと理解できるが、これを知らない人にとっては致命的な一撃になるだろう。

窓から月明かりがほのかに照らしてスメール伝統のステンドグラスがキラキラと輝いていた。色がついていることで外から中が見えにくくなっており、スメールではカーテンを使う習慣がない。日本で育った私には絶妙に居心地の悪いもので無理やりカーテンをつけようと試みたが、アンバランスがすぎて余計にストレスになってしまったことがある。窓の橋にはその失態をほのめかすカーテンレールの跡が残っている。馬鹿だったなぁと、そんな風に、

カーヴェ「もう覗き見はしなくていいのかい？」

この状況から現実逃避よろしく思考を逸らしていると、突然目の前に猫のようにまん丸の赤色が飛び込んできた。