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こういうことは何度かあったし、相手も毎度初対面のようにくるのだから私のことなど朝にはきれいさっぱり忘れているものだと思っていた。だからこそ荒波を立てることなく、その場その場を収められればいいと思っていた。
カーヴェ「貴方はいつも僕の話を親身になって聞いてくれる。それが僕にとってどれほどの助けとなっているか、貴方は知っているかい?」
A「は?」
背筋に嫌な汗がつたい、決して安くない酒の味も忘れてしまうくらいの一瞬に酔いが覚めた。その時私は遂にやってしまったのだと己の運の無さと考え無しを呪った。
スメールシティには全体的に丁寧に設備された街灯が点々と立てられている。それに加え、夜になると三十人団が定期的に巡回をしているので、割かし女ひとりで歩いていても大丈夫だったりする。これは私にとってとてもありがたい話だ。本来は私は友人との外食でない限り家飲み派なのだが、この世界の酒はみな瓶で売り買いされるため、一人暮らしの女にはまとめ買いがとても厳しい故こうして毎晩のように酒場に足を運んでいるのである。
カーヴェ「ゔぅ〜ん……」
A「案外ちゃんと重いな…」
それがどうしてか今日はあの有名建築デザイナーのカーヴェに肩を貸しているのだ。
やっぱり気にせず置いてくるばよかったと何度も思ったが、それと同じくいやあの場で放置するのは何かあった際大変だろうとも思った。何せ彼はべろべろに酔ってやれ依頼人がどうとかやれ同居人がどうとか永遠に愚痴をこぼし、突如立ち上がったかと思うと床によく分からない設計図のようなものを書き出し、酩酊と集中の中3回ほど財布を盗まれそうになっていたのだ。挙句の果てにトイレで吐き出したので、これで捨て置くのも心が痛かった。
とは言っても、彼と私は初対面ではなく何度か酒場で顔を合わせたことがあり、フラフラになりながら帰る彼を何度も見送ったことがある。ただ彼はそのことを覚えてはいないらしく、会う度同じような入りから同じような愚痴を聞いていた。そしてそれは私にとっても好都合であった。
最初に話しかけられた時は緊張のあまり頭が真っ白になりながらも、なけなしのコミュニケーション能力で何とか平然を装った。そう、話しかけられるとは夢にも思っていなかったのだ。自分のプレイしていたゲームのキャラクターに。
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しいすけ(プロフ) - かなり面白かったです!文章がすごく好みでした。ゆっくりでもいいので、次話の更新楽しみにしています。 (1月12日 0時) (レス) id: b4ab387ec9 (このIDを非表示/違反報告)
テスト2 - あ (12月28日 9時) (レス) id: b93e860056 (このIDを非表示/違反報告)
テスト - あ (12月28日 9時) (レス) id: b68cd99f0e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:稲穂 | 作成日時:2023年11月8日 2時