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湿った空気の漂う
アパートの通路を歩いていくと、
私の数メートル先を
歩いていた亜嵐が、
一番奥のドアの前で
立ち止まった。
「あ………」
亜嵐は、
そのままドアを開けて
部屋の中に入っていく。
「亜嵐っ」
慌ててあとを追った。
そして
恐る恐る玄関へと
足を踏み入れる。
「わ………」
アパートの中は、
本当に人が住んでいるのかと
疑うくらい生活感がない。
壁がボロボロと
剥がれ落ちていたり、
柱には、
あちらこちらに
傷があったりして。
もしかしたら本当に
誰も住んでいないのかも……。
とにかく亜嵐の
イメージからは、
想像もできない場所だ。
亜「いいよ、別に入る必要ないし」
玄関で立ち止まって、
おどおどと周りを
眺めていた私へ、
亜嵐が笑いかける。
口調は穏やかなのに亜嵐の声には、
いつも感情がない。
だけど、
そんな亜嵐が……。
そんな亜嵐だからこそ、
知りたいと思う気持ちが
抑えられなくなっていく。
気になって気になって仕方が無い。
「お邪魔します」
玄関に上がり込んだ私に、
亜嵐はしばらく黙っていた。
けれど、
そのうち玄関の奥にある
引き戸を開けて
部屋の中へと入っていく。
「あのっ」
自然と足が追ってしまう。
亜嵐に続いて足を踏み入れた
部屋には小さなテーブルと、
その上にいくつかの
本が置いてあるだけだ。
「ここって、いったい………」
怪しげな部屋を見渡す
私に亜嵐は、
たったひとつだけある
窓のカーテンを閉めてから
振り返った。
亜「俺の家」
「えっ、亜嵐の家？」
つい、大きな声を
上げてしまった。
だってまさか今にも
崩れそうなこのアパートが、
亜嵐の家なんて思っても
見なかったから。
亜「だから言っただろ、俺のことを知って、どうするのかって。俺なんかに興味持っても何もないのに」
戸惑う私を見て失笑すると、
亜嵐がゆっくりと私へ
近づいてくる。
亜「言っとくけど、俺は君が思っているようなやつじゃないから」
「え？」
亜「君の周りにいるような男子とは違うんだよ、俺は」
私の目線の位置まで
かがむと、
亜嵐がぐっと顔を近づけた。
「どういう意味……？」
心臓がドキドキしてすぎて
張り裂けそうになる。
唇が触れそう……
というところで、
亜嵐が静かに息を吐いた。
亜「汚いってこと」
「えっ」
亜「ここと一緒で、俺も」
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作者名：ゆーか
| 作成日時：2018年1月16日 21時
