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亜「下の名前、亜嵐は」
「え？」
突然だった。
自転車が風を切る音と
一緒に聞こえた
亜嵐くんの声。
とりあえず亜嵐くんが
答えてくれたことに、
ほっとした。
と同時に。
亜嵐くんの名前に、
ドキドキする自分がいる。
亜「それから、『亜嵐くん』じゃなくて『亜嵐』でいいから。みんなそう呼んでるし」
「あ、うん。えっ……と、じゃ、亜嵐……は何年生？それから……」
どうしてだろう。
それでも、
もっと知りたいと思ってしまう。
涼太と一緒にいる時とは
全然違う。
自分でもわからない感情が
胸の奥を
行ったり来たりする。
亜「てか、俺のこと知ってどうするわけ？」
「え？」
調子に乗って聞いたのが
いけなかったのか。
亜嵐のどこか冷めた声が
したかと思うと、
急に自転車のスピードが上がった。
亜「いいよ、分かった。そんなに知りたいなら、いいところ連れていこうか」
「いいところ……？」
どこなのか想像もつかない。
とにかく速度の変わった
自転車から落とされないように、
亜嵐の腰にしがみつく。
亜「いいよ、手離しても。着いたから」
「あっ」
亜嵐の背中にしがみついていたことに
気づいた私は、
ぱっとシャツから手を離した。
自転車から
飛び降りたものの………。
「あの、ここって………」
さっきまで見覚えのある景色の中に
いたような気がしていたのに、
着いた場所は
私の家じゃない。
「あ……」
そこは私の家からほど近い
住宅街だった。
見えるのは、
いくつかのマンションと住宅。
それから古い木造アパート。
亜「言っただろ？俺のこと知りたいなら、いいところ連れていこうかって」
冷めた笑みを浮かべた顔で
そう言い放つと、
亜嵐は目の前にある
木造アパートの敷地へ
自転車を止めた。
そして、
そのままアパートへ向かって
歩いていく。
「ちょっと待ってっ」
アパートといっても、
人が住んでいるのかどうかも
怪しいくらい古くて暗い。
今にも何かが出てきそうな
雰囲気が漂っていた。
それなのに亜嵐は、
アパートの階段を
ためらいもなく
上がっていく。
「亜嵐っ……」
私も慌てて手すりの
錆びた階段へ足を
踏み出した。
なんで亜嵐は
こんな場所へ来たんだろう。
暗くてひっそりとしていて、
まるで、
第三校舎のような感じだ。
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作者名：ゆーか
| 作成日時：2018年1月16日 21時
