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なのに龍友くんは、
私に一体何を
期待しているんだろう。
後ろ髪を引かれつつ、
亜嵐くんのあとを追った。
私より、
ひと足先に龍友くんの
家を出た亜嵐くんを
探して庭を見渡せば、
門の外に白いTシャツを着た
広い背中が見えた。
「いた」
姿を見逃さないように、
全力で駆け寄った。
「亜嵐くん、おまたせ」
亜「いいよ、別に。そこまで急いでないし」
亜嵐くんは、
自転車で着ていた。
一緒に帰るという龍友くんの
無茶な提案がいっきに
現実になっていく。
亜「送るから乗れよ」
「………」
どうしよう。
乗るって、
やっぱり亜嵐くんの後ろだよね？
これ以上ないくらい
ドキドキしてしまう。
亜「どうした？乗らないのか？」
「あ、ううんっ、乗るねっ」
どうやら緊張していたのは、
私だけだったみたい。
亜嵐くんは
顔色ひとつ変えることなく、
自転車のハンドルを
握っている。
亜「しっかり俺につかまっとけよ」
「えっ」
亜「じゃないと、落ちるだろ」
そうなんだけど。
それは、当たり前なんだけど……。
少し落とした視線の先にある、
亜嵐くんの細い腰。
そっと手を伸ばすと、
わたしは腰ではなく
白いシャツをぎゅっと
握った。
亜「それじゃ危ないし。ちゃんとつかまれって」
亜嵐くんは「マジで落ちるから」と言うと、
振り返りざまに右手を伸ばし、
私の体を自分の背中へ、
ぐっと引き寄せた。
「わっ………！」
頬にぎゅっと当たる、
亜嵐くんの匂いのする背中。
腕を回した細い腰。
初めて触れた亜嵐くんの体に、
指先まで震えて
しまいそうになる。
亜「振り落とされないように、しっかりつかまってろよ」
「あのっ、重くない？」
亜「別に俺は平気だけど？」
どんなに細く見えても、
やっぱり亜嵐くんは
男の子なんだ。
私を乗せて走っても、
汗ひとつかいていない。
意外に筋肉のついた亜嵐くんの
体に驚いていると、
緩やかな坂道に入って
自転車の速度が少し遅くなった。
ペースが落ちたことで
少しだけ緊張が解けた私は、
自然と亜嵐くんへ
喋りかけていた。
「ねえ、亜嵐くんって、下の名前？」
なんでもいいから亜嵐くんのことを
知りたい。
知っておきたい。
だけど、
声をかけたのはいいとして、
答えてくれるのか。
だって亜嵐くんは、
さっきからずっと黙ったままだ。
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作者名：ゆーか
| 作成日時：2018年1月16日 21時
