９ ページ9
ニンゲンに手を引かれたとき、何で俺そのままにしたんだろう。
俺はちゃんとした悪魔だ。人間の力を何千倍にも何百倍にもした力だって、何も考えずとも出せる。
しかも、ニンゲンは完全に子供だし、捨て子設定だし……。
振り払おうと思えば、簡単だった。
容易いことだった、はず。
振り払わなくてもいい。怒鳴ることだって殴ることだってできるはずだ。
むしろ、俺だったらそうするのが普通だった。
いや、まずまず、人間という愚かな生き物に触られることを、俺は強く拒んでいる。
それなのに、なぜ振り払わなかったんだろう。
あのとき、「行く意味がない」とは言ったけれど、「行きたくない」とは言わなかった。
言えなかった。
行きたくないって思っていたのに、言えなかったのだ。
「悪魔さん！ 一匹取れた!!」
ニンゲンの声にハッとした。
小さな器の中で逃げ道を探そうと動き回る金魚が一匹と、破けてぐちゃぐちゃになったポイ。
正直喜ぶような場面ではないと思うが、それでもニンゲンは嬉しそうに笑っていた。
「……一匹かよ」
嫌味のつもりで言ったのに、ニンゲンは笑みを深くして「えへへ」と言う。
やたらと幸せそうだ。……あ、幸せそうだな。
「お前、これで幸せだろ。仕事終わりってことで俺帰っていいよな？」
「何言ってるの!? 絶対ダメ！」
金魚あげるから！ と言って、店主からもらった袋の中でもなお逃げ道を探している金魚を、ぐいっと近づけてきた。
何で金魚をもらわなければいけないんだ。目の前で金魚食ってやろうかおい。
「いらねーよ」
「じゃあどうすればいい!? できることはするからまだ行かないでよ！」
「はぁ!? お前もう幸せだろ!? 願い成就してんじゃねぇか！」
「いや、待って！ 悪魔さんがまだだから！」
は？
「悪魔さんがまだ幸せじゃないじゃん！」
「俺幸せって感情無いっつってんだろ!!」
「じゃあ、感情がでてくるまで一緒にいて！」
「地獄かよ！」
このままじゃ同じことの繰り返しな気がしてくるので、「分かったよ」と適当に言っておいた。
ホッとしているニンゲンを見て、異常なほどにむしゃくしゃする。
何言ってるんだこいつは、バカなのか。
悪魔になった以上、幸せの感情がでてくるなんてありえない。
新しい感情が芽生えるなんてこと、あるはずがない。
俺は一生、幸せを奪う側だ。幸せになる側じゃないんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
こと(プロフ) - きのかつさん» ありがとうございます！ ２の更新頑張ります……笑 (2021年11月11日 7時) (
レス) id: 70c8834e49 (このIDを非表示/違反報告)
きのかつ - 面白いです!(◍•ᴗ•◍) がんばってください!! (2021年11月10日 22時) (レス) @page5 id: 5dc3329add (このIDを非表示/違反報告)
こと(プロフ) - Reigaです！さん» わかりました！！ありがとうございます、頑張ります!!! (2021年4月26日 20時) (レス) id: 70c8834e49 (このIDを非表示/違反報告)
Reigaです！ - 一行一行開ければ見やすいかも (2021年4月25日 21時) (レス) id: 86c2fbfb14 (このIDを非表示/違反報告)
こと(プロフ) - ありがとうございますーー！！！めちゃくちゃ頑張ります！！！ (2021年4月19日 20時) (レス) id: 70c8834e49 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れり夢 | 作成日時：2021年4月16日 21時
