雨と言い訳と彼の表情 ページ49
””……気をつけろ!!””
『っ、すみま、』
……でも ぶつからなかった
「危ないよ、!っ…」
『…………』
彼が、店長が
私の手を引っ張ったから
その反動で手を離してしまった傘
逆さを向いて、雨を受けるような形で地面に落ちる
私はそれを眺めるばかりで 店長の足元しか見えなくて
「……ね、…このままじゃ風邪引いちゃうから、
…話はカフェの中でしよう、」
それなのに店長は、そういって
両手で私の頬を包んで 自分の方に向かせる
……頬に触れられたその手が妙に熱いのが嫌で
また触られてしまったと思えばどんどん、心が崩れていくような気がして
その手を引き剥がすと 一瞬だけ
ほんの一瞬だけ、すごく悲しそうに瞳を揺らす店長が映った
『……別に、話すことなんて何も無いですよ。
それにただ見ちゃ悪かったかなと思って逃げてきただけで』
それでまた胸の奥に何か嫌なものが広がっていくのが分かったのに
出た言葉は自分でもわかるぐらい可愛げもない言い訳だった
水たまりに足を突っ込んで、傘を放り投げた私より
表情が髪から滴る水滴で見えなくなっていく 無防備なまま私を追いかけてきた店長の方が濡れてる
……女性を1人、カフェのなかに取り残して
代わりに違う女を追いかけるために こんなにまでなるって
私があの女性だったら、死んでも嫌だな
「そうじゃなくて、きっと…勘違いだから、…」
『…… 勘違いだろうがなんだろうが、私には関係ない事ですよね。』
……でも あれを勘違いって言うなら
…貴方は、何を正解として生きてるのか分からない
腰にだって手が回ってた
女性の顔はこっちに背を向けるような形だったから見えなかったけど
きっとそれが勘違いならば 店長は…貴方は、 本当に最低なことを、
「…関係あるんだよ、!……」
そうやって嫌な言葉をために溜め込んでいれば 店長がそう大きく放って
その顔は少し俯いて ぎゅっと握りしめられた拳にまで 水が伝っていく
……自分が恥ずかしい
勝手にひとりで勘違いして、舞い上がって
私を助けてくれた恩が引きはがせなくて
日に日に膨れ上がるこの感情も自分で見て見ぬふりしてたくせに
いざ夢の時間が終わったと思えば 店長に八つ当たりしてる
こんな顔、今まで一度も見たこと無かった
すごく怖い顔をして迫られたことはあったけど
こんなにすぐ消えそうで 今にも泣きそうな藍色の目も
歯を食いしばるようにして作られた口角も
今この瞬間が、初めてで
『……ごめんなさい』
不意に 情けない声と共にそんな言葉が溢れた
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作者名:月紗? | 作成日時:2022年10月16日 23時