失う彼は別れを知らない ［WN］

▽ ページ35

その日は1日泊めてもらって、傘まで借りて帰った。



流石にこれだけじゃ申し訳ないからと、色んなお店のクーポンやらなんやらを渡して

”また今度なにか奢らせて”とだけ言って来た。



これで、恩を返せるのかと言われたら分からないけれど。


.


「……分かった、6人分の飯代でいいよ」

ついさっきまで苦しそうな表情をしていたのに、そう言うと笑顔でそんなことを言ってきたジフン。



『……6人分、、？』

2人分なら分かるけど、6人分、？


その言葉の意味がわからずにいると、指をおりながら

「俺、A、ソヨン、ソハ、ヒョンス、ミンヒョン」


……なんて、あの時のメンバーの名前を出した。

『…あー…。 そうだね。集まるって話してたんだっけ。』

「多分、お前が予定立てたら全員喜ぶだろうし」



6人分の費用がかかることよりも先につっかえる戸惑った気持ちは、未だに抜けてくれない。


集まりたいだなんて言葉を聞いた時は、不意に行きたいって口に出してしまったけど

どこかその言葉が嘘なんじゃないかなんて疑っては、どんどん自信がなくなってくる。




『……私の事、憎んでないかな』

「…憎んでたら、こんなに待ってたりしない。
……大丈夫だから。」



こんなこと言うのが1番失礼で、いけないことだって分かってても言ってしまった言葉に


ジフンはそうやって、わざと私の肩を2度叩いて言った。


やけに柔らかいその笑顔に、目頭が熱くなってきて




『……分かった。沢山、用意しておくから 待ってて。』


そう約束してから、逃げるように外に出たんだった。


ジフンにこの姿が見せたくなかった訳じゃなくて


そのままでいたらきっと、 再び決めた事を守れなくなってしまう気がしたから。


……きっと、無理するななんて言って慰めくれるジフンに甘えてしまって 自分で転ける気がしたから。



……色んな決心と約束をして出たからには、絶対に守らないと

もう、これ以上のチャンスは無い。



そうじゃないときっと、私は今度こそ全てを失う。



…皆と会うには、まずちゃんと自分の気持ちに決着をつけることが先だ。



・

家に着いて、傘を丁寧に折りたたんでから

そうすぐその場で電話を掛けた


……今、時間を空けたら気持ちが揺らぎそうで

現実から目を背ける自分が、大きくなりそうで




「……もしもし、」

何コール目かで 右耳から聞こえたその声




『もしもし』

「………どうしたの？」

やけに低くて、何も無いように聞こえる音が私を崩そうとするけれど

……今度こそ、聞く。


『……今から会える？』



あなたの態度、表情、声、行動

………私を好きじゃなくなった、理由を。

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