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『…』
｢なんで黙んの？｣
怒ってる、とは違う。
単純にキスを避けられて不機嫌になっているだけだって分かるのに責められている気がしてならない。
｢ねぇ、A｣
『やっ、』
頬に伸ばされかけた腕を拒む。
『紫耀、くさいもん』
｢だから酒は、｣ 『ちがくて』
『女の人の匂いするもん。いやだ』
こないで、と小さく呟く。
｢え、｣
紫耀はくんくんと自分の服を嗅ぐ。
｢うわ、まじだ。ごめん｣
『もう寝る』
紫耀の身体を避けて寝室へ逃げる。
ベットに潜り込んで布団を頭まで被った。
『っ、』
じわりと涙が視界を歪ませる。
零さないように必死に止めようとするも虚しく零れ落ちる。
遠くでシャワーの音がした。
焦って駆け込む紫耀の姿が浮かぶ。
先程の反応からして本当に匂いには気づかなかったのだろう。
だからこそ、余計に腹が立つ。
自分ばかり気づいて、傷ついて。
紫耀本人に悪気がないから余計にタチが悪い。
しばらく1人で涙を流していると、寝室の扉が開いた。
｢A｣
優しく名前を呼ばれて、抱きしめて欲しいがために布団から出ようとしたがなんだか素直になれなくて留まる。
Aの寝転ぶすぐ近くが沈んで、布団の上から紫耀に包み込まれた。
『なに、』
｢ごめん、俺ほんとに気づいてなかった
もうシャワー入ったからさ、だから出てきて？｣
お願い、と耳元で囁かれる。
布団にくるまってるから耳元が分かりにくいはずなのに紫耀はピンポイントで囁いた。
『…』
ゆっくりと布団から出ると、前髪が少しだけ目にかかってるノーセットの紫耀。
さっきまではしっかりワックスで固めていたのに、そんな姿にもきゅんとしてしまう。
｢抱きしめていい？｣
『ん、』
おずおずと両手を広げれば、その間に大きな身体が滑り込んできてぎゅっと抱きしめられた。
『いたい、』
｢ごめん、でもこのまま｣
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作者名：たられば x他1人 | 作成日時：2020年10月19日 22時
