1 ページ1
「あら、紫耀ちゃんいらっしゃーい」
「お久しぶりです」
江戸の街の中でも、1、2を争うほどの大きさを誇る薬屋を営む神宮寺家への買い物だが、さして緊張はしない。
ここの息子とは、年齢も近く幼い頃からの付き合いだった。
「はい、これいつものやつね」
「おばさん、いっつもありがとね」
神宮寺のおばさんから、袋を受け取り踵を返そうとすると、奥の方からドタドタと音がする。
「っ紫耀！お見合い断ったってまじ！？」
ここの跡取り息子、神宮寺勇太。幼い頃からジンと呼んでおり、仲はいい。
「ああ、断ったよ。じゃ、帰るな」
適当にあしらって、店を出ようとするが。
「ちょ、待て待て！わかった、この先の茶屋で話そーぜ」
「…いいけど、お前奢れよな」
「おっけーおっけー」
……なんでコイツこんな軽いんだろ。
人の色恋沙汰は大好きだし、自分は遊郭で遊びまわってるし。
だから、こんな質問攻めにされてんだろうけど。
「え、相手って堺の商人の娘だろ？なんで、断ったんだよ。顔も可愛かったじゃん」
茶も団子もろくに味わえやしない。かといって、無視するともっとめんどくさい事になるので仕方なく答える。
「今はそういうのいいんだよ。仕事も忙しくなってきてるし、向こうは心に決めた人がいるんだってよ」
「なーんだよ、それ。お前平野屋の息子だし、顔はいいし、嫁なんていくらでも見つかりそうなもんなのに」
そう言いながらも、通りかかる町娘にウィンクを飛ばしているあたり、こいつはほんとに俺の話に興味があるんだろうか。
「そんなんだから平野屋の息子はゲイだって噂がたつんだぞ」
思わず茶を吹いた。
「うわ、汚ねーな」
「ちょ、待てよ。俺がゲイって誰が言ってんだよ」
「いや、江戸で噂になってるけど。あの女の子たちも、お前の相手俺だと思ってるかもな」
いや、笑い事じゃねーし。
先程からジンが何度も言うように、うちの実家は平野屋という呉服店で幕府からも贔屓にされており、それなりに権力のある家柄である。
その平野屋の息子がゲイって、お前風評被害もいいとこじゃねーか。ふざけんな、否定しろよバカ。
「紫耀くん、お顔が怖いよー？」
「お前のせいだろ」
最後の団子を乱暴に噛んでいると
「じゃあ、フラれて落ち込んでる紫耀のために、いいとこ連れてってあげましょうかね」
「いや、ちょ、」
「今日の夜、お前ん家行くわ。用意しとけよ」
＿＿＿＿この日、俺は恋に落ちることになる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無し(プロフ) - 音奈 きらりさん» コメントありがとうございます。幸せな2人もちゃんと書いていきますね！笑 (2020年6月17日 20時) (
レス) id: 552652e013 (このIDを非表示/違反報告)
音奈 きらり(プロフ) - 楽しく読ませて頂きました。幸せに暮らす2人も見たいです〜♪ (2020年6月17日 17時) (レス) id: ba403501a5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し(プロフ) - いむさん» 看板息子、いいですね！笑 しょうれんはきっと幸せに暮らしてます笑 続編もぜひお楽しみください (2020年6月17日 17時) (レス) id: 552652e013 (このIDを非表示/違反報告)
名無し(プロフ) - なーさん» 読んでくださってありがとうございます！番外編のアイデア思い浮かびすぎてやばいです笑 番外編に関しては、皆さんからお話のリクエスト等も、もしあったら書こうかなと思ってるので、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです (2020年6月17日 17時) (レス) id: 552652e013 (このIDを非表示/違反報告)
いむ - しょうれん最高でした！二人がどんなふうに暮らしてるのかな〜、など、沢山妄想しています。笑笑 続編も楽しみです！きっと廉くんなら看板息子…？になりますよね！ (2020年6月17日 11時) (レス) id: 220416b2f6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名無し | 作成日時：2020年5月3日 19時
