日々を彩る【短編集】 (ページ10)

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あの日から8年目の~Red~ ページ10

森田side

一昨日くらいからだろうか。視界の端にやけに透明度が高く、ふよふよと浮遊している女が視え始めたのは。

他の人は気づいていないようだし、きっと俺にしか視えていないんだろう。

俺はこの女を知っている。

俺の、初恋の人だ。

そしてそいつは、8年前の明後日に死んだ。

交通事故だった。

高校生だった俺たちは同じクラスだったがお互いに控えめな性格なために、話したのは日直が一緒になった時くらいだった。

そんな関係性だった俺に今更なぜ彼女が視えるのだ。

ロッカールームで仕事帰りの準備をしている時、ふと疑問と少しの好奇心が心の奥底から顔を出し、視界の端でチラつく女に声をかけてしまった。

｢なぁ｣

｢なんでここにいるんだよ、A…さん｣

彼女のことをなんて呼んでいたか一瞬戸惑った。

『え？気づいてたの？！久しぶりだね、森田くん！』

彼女は誰にも視えていないと思っていたようで驚いている。俺も彼女の存在に気づいてからちゃんと見ていなかったからじっくり見ると、あの頃のあどけなさがありながらもなんだか少し大人になっていた。

『私もよくわかんなくてさ〜。昔の知り合いのところを巡ってるの』

｢他の人とも喋った？｣

『全然！話せたのは森田くんが初めてだよー！』

きっと誰にも気付かれずに今まで過ごしてきたんだろうな、なんて彼女に勝手に同情した。

｢とりあえず、うちくる？ここで話すのもなんだし…｣

『いいの？』

｢うん、多分Aさんのこと視えるの俺だけだし｣

社内で"森田が空に向かって1人で話してた"なんて噂をたてられるのもめんどうだ。

家に帰るまでの道中、ふわふわと俺の周りを漂う彼女はどうしてこの世に残ったままなんだろうな、と思いを馳せる。

一般的に…いや、一般的に幽霊などは信じられないが、魂がこの世に残るのはきっと未練があるときなんだろう。

彼女の未練はなんなんだろうな。

すっかり彼女のために協力しようとしている自分がいて、思わず苦笑いをしてしまった。