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「……ちゃん…………Aちゃーん」
声がして目を覚ますと井ノ原くんが私を呼んでいた。
『うん?』
「お粥作ったけど食べられる?」
『うん』
もわもわと湯気のでるお粥は朝から何も食べていない私にはとても美味しそうに見える。
『いただきまーす』
「うん」
もぐもぐと食べていると視線を感じる。
視線の方を向けば、フッと逸らされる。
しばらくそれを繰り返したあと、私は井ノ原くんに聞いてみた。
『井ノ原くん、さっき怒ってた?』
「…うーん、まあ怒ってる、かな」
『え、今も?』
お粥を食べる手を止めて井ノ原くんの方に体を向ける。
私が井ノ原くんの方を向いても視線は合わない。
『ねえ、私何か………』
「自分の身体を大事にできない人って他人に優しくないよね」
井ノ原くんが下を向いてポツリと零した言葉は、今の私にグサリと深く刺さった。
私が視線を落とすと、あっという間に溜まった涙がぽとぽとと零れる。
「ごめん。Aちゃんのこと責めたいわけじゃなくて、それくらい心配してるんだよって言いたかっただけで…」
『…うん、わかってる、』
井ノ原くんは私のことをそれだけ心配してくれていて、そんな井ノ原くんを悲しませてしまうなんて、本当に私は最低だ。
『井ノ原くん、心配かけてごめんね』
いつもだったら喧嘩をしたら、抱きしめ合うことで仲直りの合図だけど、今は風邪ひいてるしあんまり近づくのも…と思い、ごめんなさいと頭を下げるに留めた。
井ノ原くんも頷いたからこれで一件落着ということでお粥を食べ始めようとした。
すると、井ノ原くんが椅子から立ち上がり、次の瞬間には私は井ノ原くんのお腹らへんに顔をうずめていた。
抱きしめられた、と気がつくのに数秒かかり、井ノ原くんが私を抱きしめる力がほんの少し強くなったことにすぐに気がついた。
私も井ノ原くんの腰あたりに両手をまわし、ぎゅっとくっつく。
「1人で抱え込まないでよ」
近すぎてくぐもって聞こえるその声に、何回も頷いた。
『今やってる仕事が一段落したら一緒に海に行って、かき氷食べて、あと花火も見ようね』
「うん、あとバーベキューも!」
楽しそうに笑う声が、お腹から伝わる振動が、すべて愛おしくて、もっと力を込めて抱きしめた。
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作者名:それ | 作成日時:2020年12月19日 16時